クラウド導入の目的がコストから災害対策に大きくシフト
ITシステムのバックアップ、復旧環境を「夏までに作れ」という声がたくさん届いている、と語るのは特別講演のステージに登壇したアマゾン データ サービス ジャパンのエバンジェリストで技術推進部長の玉川憲氏だ。今回の大震災により東京電力管内では電力供給が逼迫しており、エアコン利用が増える夏には供給不足はほぼ確実な状況だ。企業においては、電力供給が止まればITシステムを稼働できない。システムが止まれば、多くの企業がビジネスも止まってしまう。
まして、突然の停電ということになれば、システムの故障やデータ喪失なども心配しなければならない。企業のIT担当者は、急遽何らかの災害対策を施すことが最優先事項となっている。とはいえ夏までの残り数ヶ月で、ITシステムに停電対策を施しビジネスを継続できるよう冗長性を確保することは、コスト的にも手間的にもかなり難しいが現実だ。
そのため、短期間でかつ大きな初期費用なしに解決策を提供できそうなAWSに、多くの企業が助けを求めていると玉川氏は言う。従来はクラウド導入の一番の目的はコスト削減だった。しかしいま、東日本大震災という大きな災害を経験したことで、クラウド利用の最大の目的が災害対策へと大きくシフトしているのだ。
スピード、分散、コストでAWSを選択―クックパッド
とはいえ、すでにAWSのサービスを利用しているユーザー企業は、どのような理由でクラウド環境の採用を決めたのだろうか。レシピコミュニティーサイトのクックパッドは、月間で約4.9億ものページビューを誇るWebサイトを運用している。このサイトの運用にAWSのクラウド環境が活用されている。
クックパッド株式会社 技術部インフラグループリーダーの菅原元気氏は「AWS移行に向けたクックパッドの取り組み」というテーマで同社のAWSの事例を紹介した。クックパッドのサイトには1日のうちで昼食、夕食の調理を始める時間帯にアクセスピークがやってくると説明する。さらに特徴的なのが、年間のアクセスピークの変動だ。「クックパッドでは、年間では2月にアクセスピークがやってきます。これはバレンタインデーがあるためで、社内ではバレンタインデーをいかにして乗り越えるかが大きなテーマになっています」(菅原氏)。
このように1日、あるいは年間で負荷の変動幅が大きいサイトを運用するために採用したのが、AWSのサービスだった。菅原氏によると、AWSを採用した理由はスピード、分散、コストの3つ。スピードというのは、開発環境を準備するスピードだ。物理サーバーを購入しセットアップするのに比べ、AWSならサーバー導入のスピードが格段に速い。この速さが、クックパッドのさまざまなサービスリースのスピードアップにつながっている。
そして、ITインフラ担当者に頼まずとも簡単にサーバー環境を用意できることで、サービスを開発する担当者とインフラ担当者が分散して作業できる点も菅原氏は高く評価している。AWSのコスト面について菅原氏は、「リソースの確保という点だけならEC2はちょっと高いかなと感じている」と語る。とはいえ、管理コストや災害対策まで含めて考えれば、それほど高くないという。
なお、菅原氏がコスト面で最も評価しているのが通信費だ。データセンターにサーバーを置いていた際には、アクセスピークに合わせ最大帯域幅で契約していたため、これには大きなコストが発生していた。しかしAWSを採用したことで、データ転送量による課金となり、ピーク時とそうでないときの課金に大きな差ができる。結果的に大幅なコスト削減が実現できたという。(次ページへ続く)