目前に迫るアジア圏におけるIPv4アドレス枯渇
前回の執筆時点では、APNICの割り振り可能なIPv4アドレスブロック数は3.59であったが、2011年4月15日、ついにAPNICにおいてIPv4アドレスが最後の1ブロックとなり、事実上の枯渇を迎える事となった(図1)。
今回は、前回紹介したインターネットを構成する主な4つのグループに対して、現状どのようなIPv4枯渇対策が行われているかを見ていきたい。簡単に各グループで現在実施されている対策を下記の図2に記載した。
次から具体的にどのような対策が行われているかを解説する。
グループ1(各種インターネットレジストリ)における対応状況
IPv4アドレスの管理を行うレジストリでは、IPv4アドレスの流動性を高める施策、IPv6への移行の呼びかけを行っている。
1.歴史的PIに対する課金の検討
歴史的PIアドレスとは、現在のアドレス管理体制ができる前に、国際的なIPアドレス管理機関から、学術団体や先進的な企業が直接割当を受けたIPアドレスのことである。現在のアドレス管理体制では、各組織のIPアドレス需要に基づいて必要な数を申請し取得する。
しかし、歴史的PIアドレスは、学術系の団体等が研究用途等で取得していたもので、実需よりも多くのIPアドレスが割り当てられているケースが多く存在している。しかも、通常IPアドレスは、レジストリに対して使用料を支払う必要があるが、歴史的PIに関して課金対象外とされていたので、不要なIPアドレスであっても返却しない組織も多く存在していた。そのため歴史的PIアドレスには、実際には利用されていないIPv4アドレスが多数存在していると考えられている。
しかし、今まで使用料金が発生していなかった歴史的PIアドレスに利用料が発生するとなれば、金銭の負担を嫌がって、返却に出る組織もある程度発生するのではないかと予想されている。全てのレジストリが積極的に課金を検討しているわけでは無いが、他国と比べて歴史的PIホルダーを多く抱えるJPNICでは2012年4月からの料金改定を目標に、現在検討が進められている(図3)。
なお、JPNICがこの施策を実行し、返却された歴史的PIアドレスはAPNICの最後の/8ブロックに組み込まれ/22を配るために利用される予定だ。
本件の詳細について知りたい方は、JPNICの報告(IPアドレス等料金体系改定の件」検討状況の報告)を参照して欲しい。
2.アドレス移転制度の認可
レジストリの対策の中で最も注目を浴びているのが、アドレス移転制度である。これはすでに海外では実現されており、日本国内でも、2011年7、8月を目処に施行する方向で現在検討されている。従来、日本国内におけるIPv4アドレスの割り振りはJPNICから、IPv4アドレスを必要とする組織に割り当てられていた。
もし、このIPv4アドレスの移転が可能になれば、IPアドレスの在庫に余裕のある組織が、金銭による売買目的のために市場に放出する可能性があるとされている。現在JPNICが検討しているアドレス移転制度の骨子案を図4に示す。
本件の詳細について知りたい方は、JPNICの報告「JPNICにおけるIPv4アドレス移転制度の施行について 」を参照してほしい。なお、海外の例では、カナダのノーテル・ネットワークス社が、IPv4アドレス66万6624個を、米マイクロソフト社に750万米ドル(約6億3000億円)で譲渡したのが記憶に新しい。
この例では、IPv4アドレス1個辺りの値段は$11.25となり、1ドル85円で計算すれば、約957円という事になる。アドレス売買において1IPあたり幾らという値段の相場はないが、1つの指標として使われるようになるだろう。
3.IPv6の啓発活動
インターネットの永続的な発展を推進するという観点では、IPv4アドレスの流動性を高めるだけでは限界がある。そのため、IPv4アドレス枯渇が及ぼす影響や、IPv6導入の移行への必要性を「IPv4枯渇タスクフォース」等と共に、世間に呼びかけている。(次ページへ続く)