部門間の合意形成を体系的に進める道具
ただし、ビジネスのゴールとシステムの要件を繋ぐことは容易ではない。ビジネス上のゴールは経営層が決断すれば良いし、システムの構築はIT部門がイニシアチブを握ることができる。しかし、業務ルールの策定は、営業、経理・財務、生産など複数の部門同士でコンセンサスを取らなければならない。しかも、それらは責任の所在や仕様が不明確になりやすい。しかし、不明瞭なままプロジェクトが進んでしまうと、いざシステム構築の段階に入って手戻りが頻発したり、できあがったシステムに誰も見向きもしない完全な失敗プロジェクトになり果てたり、という事態になりかねない。
スムーズにプロジェクトを遂行するには、上流工程の意思決定を体系化し、失敗の芽を早期に摘み取っておかなくてはならない。体系化された手法で進めていれば、万が一、構築の途中で手戻りが発生しても、部門間の調整において何をすればいいのかが明確なので、短時間でリカバリできる。
SI ベンダ側がユーザー企業の経営層、業務部門、IT部門で協議する要件定義をサポートする意義もここにある。上流工程で参画していれば客観的にプロジェクト全体を見ながらサポートすることも可能となるからだ。
ユーザーの人材支援にも役立つ「Tri-shaping」研修サービス
ユーザーのビジネス価値向上に対してITが関わるという意味では、フレームワークBABOKと類似していると感じた方も多いかもしれない。「BABOKは網羅性に優れた知識のフレームワーク。Trishapingはその骨格を踏襲しつつ、実際のプロジェクト遂行に利用できるよう実践性を加味したツールと捉えるとわかりやすい」(若杉氏)。
例えば、「要求を明確にすべき」と示唆するのがBABOKだとすれば、プロジェクトの各チェックポイントで利用すべき「要件の成熟度の評価ポイント」を具体的にまとめたのがTri-shapingだ。要求形成手法、業務形成手法、業務仕様形成手法と進む過程で、その時々でどの項目で満足しておくべきか、どのような条件を満たせば、次のプロセスに進んでも問題ないか、といった点が明確化されている。具体性を備えたツールのガイドによって、経験の少ないプロジェクトマネジャーでも混乱することなく、要件定義を進めていくことができる仕組みだ。
当初は、富士通の要件定義手法として設定したTri-shaping だが、ユーザー企業側から自社のITスタッフのレベルアップに役立てたいという問い合わせが多かったため、研修サービスも新たに設定した。経営視点で業務プロセスを変える、あるいは、業務視点でITを変える人材が求められて久しい。富士通の新しい要件定義手法は、ビジネスを支える基盤としてのITシステムを実現するものになるかもしれない。