好調なストレージ市場
グローバルな経済環境が厳しい状況にあっても、ストレージ市場は比較的堅調であり2桁成長が続いている。企業が活用するデータ量が年率60パーセント以上のペースで増大していくとの予測もあり、当面は右肩上がりの状況が続くだろう。
現時点におけるストレージ需要の代表的推進要素が「ビッグデータ」と業務継続/災害対策である。どちらも、ユーザーが管理するデータ量の増大に伴う市場機会を提供すると共に、新たな課題をもたらすことにもなる。これらの機会と課題について、まず、ビッグデータについて見ていこう。
「ビッグデータ」のビッグな機会
今日のIT市場全体における重要動向の1つとして「ビッグデータ」を挙げることに異論がある人は少ないだろう。テクノロジー的な観点から見た「ビッグデータ」のポイントは、単に大容量データ(数十テラバイトからペタバイト級を指すことが多い)というだけではない。これに加えて、非定型であり、かつ、リアルタイム性が高いという特性を備えていることが「ビッグデータ」のポイントだ(この点から言って単に「大きなデータ」ではないということを示すために、「ビッグデータ」とカッコ付で表記することを提言したい)。
「ビッグデータ」の典型例は、Webサイトのログデータ、ソーシャル・メディアのデータ、イメージや動画などのマルチメディアデータだ。今後は、無線タグやセンサーが生成するデータも「ビッグデータ」の推進要素の1つとなるだろう。
企業内で非定型、かつ、リアルタイム性が高いデータが増大していくという動向は今に始まった話ではないが、現在においては、数ペタバイト級のデータを現実的な速度で処理できるテクノロジーが比較的安価に入手可能になったこと、そして、特に、Webデータ解析の領域を中心として超大容量データの分析からビジネス上の確実な差別化要素を得ている企業が出現し始めているという点で「ビッグデータ」の重要性はきわめて高くなった。メインストリームになったとまでは言えないものの、今まさにキャズムを越えようとしている位置にあると言えよう。
言うまでもなく、ストレージ・ベンダーにとってこの「ビッグデータ」の動向は、自社ソリューション・ビジネスの大きな機会となっている。一方、ユーザー企業にとっては、かつては実現不可能だった新たな差別化要素を生み出す機会を提供すると共に、今までになかった大容量データを扱うという点での課題とリスクももたらすだろう。大規模データウェアハウスを活用してきた企業であっても、大容量かつ定型というデータの扱いには慣れてはいても、大容量かつ非定型というデータタイプを扱ってきた経験はほとんどないことも多い。
一般的な「ビッグデータ」の議論では、Hadoopなどの並列処理ソフトウェアやNoSQLなどのデータベースの階層にフォーカスが当たることが多いが、本稿ではストレージの階層における「ビッグデータ」の影響について考えていこう。なお、一般的認識における「ビッグデータ」ではデータの分析にフォーカスが当たっていることが多いが、ストレージの観点から言えば、データの配信(代表例:ストリーミングメディア)、そして、データのアーカイブ(代表例:医療情報管理)という領域も含めて考えるべきだ(図1)。ストレージ機器への需要という点から言うと、配信とアーカイブの領域は分析の領域よりも大きいと考えられる。
超大容量の非定型データを保管し、リアルタイムでの処理を可能にするという点でストレージ・テクノロジーは著しい進歩を示している。ハードディスク・ドライブの価格も継続的に低下しており、サーバーの世界と同様に、多数のドライブを並列的に使用し、負荷を分散することで性能を向上する水平スケーリングが一般的になりつつある。また、データ圧縮、シン・プロビジョニング、デデュプリケーション(重複排除)などの機能の継続的進化により、ストレージの利用効率も向上している。
こうした中で、ユーザーにとって真の課題となるのはストレージの管理だ。データの保存と処理だけであれば、現在の延長線上でもテクノロジー進化と「物量作戦」で対応できる。しかし、データの管理はそうではない。必ず人的要素がボトルネックになるからだ。データ量の爆発的増大に伴い、従来型の管理手法では、テクノロジーではなく、管理負荷の限界により、システムの効率性・安定性が失われるリスクが増している(図2)。ユーザー企業は一歩進んだ、よりインテリジェントなストレージ管理にフォーカスする必要がある。