BYOD、2つの視点
社団法人日本情報システム・ユーザー協会の調べでは、2010年度の1兆円企業の74%が、導入検討中を含め、なんらかの形でスマートフォンの導入を推進している。しかし、そこまでの規模ではない企業の場合、特に中小企業では会社で一括導入して貸与するということを躊躇する企業もある。便利なことは分かっているのだが、最初に大きな投資ができないケースがあるからだ。
そうなると、BYODという考え方も出てくる。社員が自分で買ったスマートフォンを会社に持ち込み、会社のメールを見られるようにしたり、あるいは業務システムを利用できるようにするという考え方だ。この場合、2つの視点で整理する必要がでてくる。
1.セキュリティ
まず最初に気にかかるのがセキュリティだ。個人が所持するスマートフォンであるから、ゲームが入っていても不思議ではないし、好きなアプリケーションをダウンロードして利用することも制限できない。
しかし、顧客の電話番号が入る可能性もあれば、会社のデータにアクセスすることも視野に入れる必要がある。この整理に苦慮してしまい、結果的に意にそぐわないが値段の安い携帯電話を導入する企業が少なくない。これは、効率を考えていながらも、結果的に非効率な方向に行きかねないし、スマートフォンの恩恵にあずかることは不可能だ。
せっかく社員がスマートフォンを持っているにも関わらず、セキュリティが問題で活用できていない企業は少なくない。これを何とか活用する方法はないものだろうか。
いくつか考えられる方法の一つが、シンクライアントだ。シトリックスが代表的だが、クライアント端末、今のケースだとスマートデバイスには業務システム用のアプリケーションなどは一切置かずに、サーバにアクセスしてそのシステムを利用する方法だ。仮想デスクトップを利用するケースが多く、スマートデバイスの画面にWindowsの画面が表示され、そこでシステムを利用することになる。セキュリティ上は、スマートデバイスには何もデータや利用履歴が残らないため、安全に利用できる。
しかし、一方で「遅い」というデメリットもある。ちょっと資料を確認したいだけなのに、いちいちシンクライアントのアプリケーションを立ち上げて、アクセスするまで待つ時間を考えると、資料確認すら面倒になってくるという声もある。
私は、シンクライアントを導入すれば全ての問題が解決する、とは考えていない。シンクライアントを導入するという選択と同時に、「本当に全てのデータは、個人の端末上に置いてあってはいけない」のだろうか。ここに疑問を持たずに、馴染みのあるシステム会社に依頼してしまうと、システムありきになってしまうのだが、そもそもどのデータを持ち出されると困るから、こういうシステムを導入するのか、というところから整理する必要がある。
例えば、今までは紙で配布していたパンフレットやカタログを、スマートデバイスでプレゼンテーションしたいという希望があったとする。これを、いちいちシンクライアント経由で見せる必要性はあるのだろうか。今まで普通に紙で配っていたものなのだから、個人所有であってもスマートデバイスの中に取り込んでしまっていいのではないだろうか。
パンフレットやカタログが一つの例だが、それ以外にも企業によっては自社の製品紹介やサービスを動画でホームページから見られるようにしているところもある。その動画データもスマートデバイスに取り込んでしまえば、スムーズに顧客に見せることが可能だ。
スマートフォン、スマートデバイスの利点は、PCよりも起動が速いことなのに、シンクライアントを使うせいで遅くなってしまっては本末転倒だということに立ち戻ることが重要だ。
当社の顧客企業でも、ここの整理から始めることが少なくない。これを整理すると、実はほとんどのデータは持ち出しても構わない、ということもあるからだ。残ったデータは、さほど持ち出す必要性を感じない、ということなのであれば、そもそもシンクライアントにコストをかける必要がないということになる。むやみにシステムを導入せず、まずは業務の整理をするところから支援するのが、イシン株式会社の特徴なのだ。