2011年はクラウドの普及やビッグデータブームの到来により、インメモリデータベースの存在にあらためてスポットライトが当たった年でもあった。ハードディスクから大量データをメモリにロードするというプロセスを必要としないインメモリデータベースは従来のRDBMSの数十倍から数百倍のパフォーマンス向上を実現するとされている。今後、さまざまな社会的シーンで大量のデータを高速に処理するニーズが高まることが予想されており、インメモリデータベースへの注目度もそれに伴って上がってくることだろう。
現在、各ベンダからいくつものインメモリソリューションが発表されているが、その中でも独SAPが擁する「SAP HANA」は"破壊的(disruptive)な高速性"を前面に出し、競合との差別化を狙っている。HANAは今後、SAP ERPのバックエンドを置き換える存在としても注目されているが、SAPはHANAを同社製品ポートフォリオのどこに位置づけようとしているのか。国内でのHANAビジネスを統括するSAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部 本部長 兼Co-Innovation Lab Tokyo担当 馬場渉氏にお話を伺った。
SP3でBWの認定データベースに - ERP on HANAへの布石
SAPジャパンは11月7日に「SAP HANA SP3」の提供を開始した。従前まで「SAP HANA 1.5」と称していたバージョンだが、馬場氏によれば今後は"SP(Support Package)"の呼称で半年に一度のバージョンアップが図られていく予定だという。
「次のリリースもHANA 2.0ではなくHANA SP4として登場することになるはず」(馬場氏)
ここで簡単にHANAのこれまでを振り返ってみよう。最初にHANAが具体的なソリューションとして登場したのは昨年11月のHANA 1.0に遡る(国内提供開始は2010年12月)。
2010年、同社の年次イベント「SAPPHIRE」において創業者のHasso Plattner氏は「インメモリデータベースこそが今後のSAPのビジネスの土台を支え、顧客企業のシステムにリスクフリーで徐々にインメモリのパワーを届けていく」と宣言した。そしてこれを具現化した最初のインメモリ製品が、Intel Xeon 7500に最適化されたアプライアンス「High Performance Analytic Appliance」、つまり"HANA 1.0"である。HANAを搭載したハードウェアベンダにはHewlett-Packard、IBM、Dell、Ciscoなどの外資系ベンダーをはじめ、富士通、日立の国内ベンダーを含め現時点で6社より提供されている。
その半年後の2011年6月、顧客のレビューによる意見なども取り入れ、HANA SP2が公開された。このころからSAPはHANAをアプライアンスありきのインメモリエンジンではなく、インメモリデータベースとして位置づける方針に切り替えている。
「HANAは顧客の声をダイレクトに反映していくことを重要な開発方針としている。もちろん、日本の顧客企業の意見も多く取り入れられている」(馬場氏)
11月にリリースされたSP3について馬場氏は、「本来、HANA 2.0(SP4)で搭載される予定だった機能の多くが前倒しで投入され、メジャーバージョンアップと言ってもいいほどの変更」だという。なかでもハイライトは同社のデータウェアハウスソフト「SAP NetWeaver Business Warehouse(BW)」の認定データベースとなったことだろう。
「SAP ERP導入企業の約4割がBWを採用している。そのほとんどはデータベースとしてOracleを採用している。これをHANAにリプレースすることで劇的な性能の向上が実現する」(馬場氏)
BW上で構築されているアプリケーションはサプライチェーンやバックオフィスの管理など、それなりにミッションクリティカルな部門で利用されており、ここでHANAのパフォーマンスが実証されれば、SAP ERPにおけるHANAへのリプレースにも弾みがつく可能性が高くなる。