テレビ局を取り巻く現状
国内コンテンツ市場
総務省の発行している「情報通信白書」によれば、国内のコンテンツ市場はここ数年11兆円規模で堅調に推移している。そのうち約5.3兆円を映像コンテンツが占めている。その映像コンテンツの中でも地上テレビ番組と衛星・CATVの合計が約3.6兆円を占め国内映像コンテンツ市場の約7割をテレビコンテンツが稼ぎ出していることになる。
映像コンテンツの支柱とも言えるテレビコンテンツだが年々収益の大部分を占める広告費は減少傾向にあり、魅力的なコンテンツを作りたくとも経費削減のため番組制作コストの減少という悪循環となっている。
視聴者離れと広告収入の低下が指摘されるテレビ業界だが、その実態はどのようになっているのだろうか。
視聴率低下の原因
一般的には制作費の低下等により面白い番組が作れなくなり、テレビのコンテンツ力の低下によって視聴者離れが進み、それによって視聴率が低下していると考えられている。
確かにその要素は強いが、視聴率調査方法にも実はいくつかの原因が隠されている。
1.視聴機器の多様化によるカウントされない視聴の増加
ビデオリサーチ社の視聴率には地上波放送、BS放送、CS放送、CATVらを表示するテレビ受像機が対象となる。ワンセグを携帯電話やゲーム機で見る、パソコンで見る、録画機器で見る、といったケースの視聴数は含まれていない。当然だが違法に動画サイトにアップロードされたコンテンツも当然視聴率には含まれていない。
家庭内に溢れるスクリーンの増加に「視聴率」カウントの仕組みが追随できていないのだ。
2.ライフスタイルの多様化によるゴールデンタイムの分散
昨年「家政婦のミタ」が視聴率40%を記録した日本テレビが9年ぶりに「視聴率三冠」に輝いた。この視聴率三冠とは、全日(6時~24時までの18時間)、ゴールデンタイム(19時~22時)、プライムタイム(19時~23時)の三つの時間帯での平均視聴率でそれぞれ一位を獲得することを言う。
よく視聴率と言うと、ゴールデンタイムを想像する人も多いだろう。このゴールデンタイムに放送された番組の視聴率が5%にも満たず、放送打ち切りになると言ったことも見かけるようになった。そういった報道を見ると多くの人がテレビを見ている人が少なくなったと感じているのではないだろうか。しかし、ここにも生活習慣の変化が視聴率に影響を与えている。
ビデオリサーチ社の定義ではゴールデンタイムは19時~22時と定義されているが、視聴者のライフスタイルの多様化によって、人々の属性毎にリアルタイムでテレビを見る時間帯が分散しているのだ。
例えば、主婦層にとってのゴールデンタイムは家族が家にいない昼の時間帯だが、アニメが好きな人たちにとっては深夜の時間帯が、飲み会やパーティで忙しい若者、多忙なサラリーマンにとっては、録画機器によるタイムシフトが当たり前だ。
このように属性毎のゴールデンタイムの分散が、特定時間帯だけを対象とした視聴率では過去と比較して低下しているように感じるのだ。
3.世帯数の増加と核家族化
視聴率とは「世帯視聴率」と「個人視聴率」に分類される。一般的に用いられる視聴率とは「世帯視聴率」のことを指す。
日本国内は2005年以降、人口減少期に入っているが、実は世帯数は増えている。核家族化による一人暮らし世帯が増加しているのだ。
世帯視聴率は世帯数に対する相対的な視聴率となるため、世帯数が増えることによって視聴率の獲得は難しくなっていく。
このように1962年から開始された視聴率調査ではあるが、古くから続いた調査方法が現在のテクノロジーの変化が巻き起こす生活習慣の変化、視聴環境の変化に追随できていない状況にあるのだ。
進む若者のテレビ離れ
ここに興味深いデータがある。視聴率低下が叫ばれる現在ではあるが、一人当たりの視聴率は1985年に3時間だったのに対し、2011年時点では3時間46分と増加しているのである。世帯視聴率は低下傾向であるが、一人当たりの視聴時間は増加しているのだ。
このような現象が起きる理由は若者のテレビ離れにある。核家族化、一人暮らし人口の増加により家を出た若者達によって世帯数は増加するが、その若者達がテレビを見なくなったので世帯視聴率は低下する。しかし、シニア層の視聴時間と人口増が一人当たりの視聴時間を押し上げているのだ。