成功への執着を断ち切り、イノベーションを起こす―パルミサーノ会長
IBMでは、未来の成長のためには「真のイノベーションとリーダーシップ」が不可欠と考え、「グローバル化の中で成長の好機をどう捉えるか」、「組織を牽引するリーダーに求められるものとは」などについて具体的な熟考を重ねてきた。その成果を1人、1社、1国で抱え込むことなく、共有し合い、イノベーションの起爆剤としていくこと。それが「THINK Forum Japan」開催の目的だという。
その議論の口切り役として、IBMコーポレーション会長のサミュエル・J・パルミサーノ氏が登壇した。パルミサーノ氏は、2002年のCEO就任直後からITのグローバル統合による変革をビジョンとして掲げ、新生IBMを創り上げたとして知られる人物だ。在任中にIBM史上最高の業績を残しながらも、2012年1月にCEOを退任。会長となった現在も、イノベーションの重要性について提言し続けている。
パルミサーノ氏は、日本IBMの75年にわたる歴史を「イノベーションの旅」と表し、「前へ、未来へ」と進み続けようという気概が原動力だったと語る。その思いを共有する多くの企業とともに新しいビジネスの仕組みを創造し、世界へと発信してきた。
しかし一方で、現在の日本企業の状況を憂い、「誰もが成功に導いてくれた製品やサービス、ビジネスモデルには愛着があり、時にはしがみついてしまうこともある」と指摘し、「変革の妨げとなる執着を断ち切り、新しい挑戦へと導くのがリーダーの役割」と力説した。そして「既存の成功から脱却する“潮時”を見極め、組織の意識を変えていくこと。そのためにはリーダー自身も厳しく自らを見つめ直し、自己改革を行う必要がある」と語った。
パルミサーノ氏は、1990年代に日本でのキャリアを選択した自身の経験に触れ、「米本社でのポストもあったが、安易な道ではなく、あえて“距離の長い旅”を選んだ。若気の至りではあったが(笑)、結果として学ぶために耳を傾けることを覚え、『私たちが』と考えることを身につけた。視野も人脈も広がり、なんといっても『自分を変えること』の重要性を知った」と振り返った。そうした自己改革の経験が、その後IBMのCEOとして組織を改革する糧となったという。