さて、前回はユーザー目線で導入ベンダーを選定するコツについてお話しましたが、今回は逆のパターンで、ベンダー側から見た失敗リスクの高いユーザー企業の見分け方についてお話したいと思います。こういう話は、業界内の裏話みたいなものなので、ユーザー企業にとってあまり面白くない点もあるかもしれませんが、知っていて決して損は無い情報ではないかと思います。
ERP導入の失敗要因はシステム以外にもある
この業界に身を置いていると、「K社のERP導入は既にERP導入ではなく、ERPパッケージのうえにスクラッチ開発をするような状況になっている」とか、「L社は創業者の社長が一線を退き、新社長がERP導入による経営改革を進めている」などさまざまな業界情報を聞きます。
ERP導入の失敗要因はユーザー企業の体質や文化、人間関係やビジネス状況に起因するものが多く、ベンダー側としてもこうしたリスクを考慮したうえで、どこまで本気で提案するかという判断が求められます。
ERP導入リスクが高いユーザー企業とは?
同じ業界で同じような企業規模・要件をもつ2つの企業へERP導入を行っても、その結果がまったく異なるものになることがよくあります。提案するシステムの構成や期待する導入効果はほとんど同じ、導入するベンダー側の体制もほぼ同じ。それでも、失敗する企業と成功する企業に分かれてしまいます。
その要因として、ユーザー企業の体質・文化、社内の人間関係やその時にユーザー企業が置かれているビジネス状況が、大きく関係することが多いように思います。それはつまり、ERP導入という全社イベントが潜在的な問題点を浮き上がらせて、これまで曖昧になっていた対立を表面化させてしまうことになるからです。
例えば、最近のキーワードに「見える化」という言葉がありますが、これは意思決定のプロセスや判断基準を透明化して業務を円滑に進めることや、属人化している業務を明確にして標準化することなどを言います。一見よさげに思われますが、「見える化することで、何がどのように変わるのか。見える化する目的はなんなのか」を最初に明確にしておかなければ、結局課題を顕在化させるだけで何も変わりません。
ERP導入はこの「見える化」を実現化する手段として提案されるケースが多いのですが、ベンダーはユーザー企業に起因するERP導入リスクを事前に予測したうえで、提案をしなければなりません。安易な提案はユーザー企業の問題点を顕在化させ深刻な内部対立を生じることとなり、最悪の場合ERP導入プロジェクトが失敗するだけでなく、未払いや訴訟と言ったベンダー側の業績に直接影響することもあり得ます。
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鍋野 敬一郎(ナベノ ケイイチロウ)
米国の大手総合化学会社デュポンの日本法人に約10年勤務した後、ERP最大手のSAPジャパンへ転職。マーケティング、広報、コンサルタントを経て中堅市場の立ち上げを行う。2005年に独立し、現在はERP研究推進フォーラムで研修講師を務めるなど、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスに従事している。
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