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アイデア創出における「環境」という変数

(第5回) 


様々な場所でのデザイン思考の実践的な研究を通じて、優れたアイデアの創出とそれが行なわれる環境との関係が日に日に明らかになってきています。今まで実現されていないことを実現するというイノベーションのための創造性がより重視される傾向にあるなかで、これまでのオフィス環境のデザインとは異なる、より創造性を発揮できる空間のデザインとはどんなものかが検討されています。今回は、ワークショップの事例も紹介しながら、創造性の関数としての「環境」について考えていきます。

 

 アイデアが出やすいのは、イスに「座って」作業する場合? 「立って」作業する場合? 

 私たち人間の考えや行動はまわりの環境からの影響を強く受けていて、自分で思うほど自分の思考や行動を自由に選択できているわけではありません。

 たとえば、コの字型に配列された机のまわりにみんなが座り、部屋の前面に写し出されたスライドを見ながら、ただ発表者の話を聞いているだけの会議では、意見も質問も出にくいものになります。これに対して、同じ会議室を使って同じメンバーで集まっても、机を近づけみんなでポストイットを使ってアイデアを出し合うブレインストーミングの形を取るだけで、見違えるほど意見が活発に出るようになります。

 グループごとにアイデアを具体的な形にしながら検討するプロトタイピングを行なう場合でも、机を囲んで各自が自分のイスに座ったままで作業をする場合と、全員がイスに座らず立ち上がった状態で作業をするのとでは、メンバー同士で意見が交わされアイデアが生まれてくる活発さも大きく違ってきます。

 前者のイスに座ったままで作業を行う場合には、メンバー同士の役割や発想まで固定されがちで、メンバー間のやりとりもうまくいかずに、作業が個人個人バラバラになってしまいます。そのため、なかなか「ありきたりのもの」を超えるアイデアが生まれにくかったりします。

各自がイスに座った状態のまま作業をするグループ

 一方でイスに座らずに立ったまま作業をする場合は、メンバー同士の意見の交換や作業自体の進め方がよりダイナミックなものになったりします。

誰もイスに座らずに立った状態で作業をするグループ

 イスに座らず立った状態なので、近くの壁や床を使うために立ち位置や身体の向きを変えるのも楽で、その分、机の上だけしか使えなくなるイスに座った状態よりも、床や壁を含めて空間そのものをより有効に活用できるようになります。壁に貼ったアイデアを指差して議論を行ないながら、一方で机の上でそのアイデアを具現化したプロトタイプをつくることも可能ですし、プロトタイプを作ったことで得た発見を新たに壁に貼った紙の上に書き足したりすることもできます。

 そんな風にメンバー同士が役割分担しつつも、より連携してアイデアをブラッシュアップする作業ができますし、メンバーの役割自体も固定することなく立っている場所が替わるだけで簡単に入れ替わったりするので、各自がいろんな視点から考えられるようになり、いろんなアイデアが入れ替わり立ち替わり生まれてきやすい状況ができます。

 つまり、イスに身体を固定しないというのは、単に身体が自由になるという以上のものだということです。身体が自由になることで、グループワークをするメンバー同士が話をする立場だったり、作業の役割も自由に変えられたりするようになり、イスに座った状態で作業を進めるよりも、発想自体が自由に豊かになる確率を高めることができるのです。

次のページ
 作業内容や目的に応じてレイアウトを変えられる空間は創造性が高まる

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この記事の著者

棚橋弘季(タナハシヒロキ)

棚橋弘季(たなはしひろき) 株式会社ロフトワーク所属。イノベーションメーカー。デザイン思考やコ・デザイン、リーン・スタートアップなどの手法を用いてクライアント企業のイノベーション創出の支援を行う。ブログ「DESIGN IT! w/LOVE」。著書に『デザイン思考の仕事術』 など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/4334 2012/11/22 15:38

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