今までの連載では、「オープン・イノベーション」、「オープン・サービス・イノベーション」の基本概論を中心に解説してきました。今回は、「オープン・サービス・イノベーション」の取組み自体を、自社に導入していく際に、自社だけではなく、導入を支援する企業などのサービスを俯瞰し、企業での実践の参考になるような様々な選択肢を提示します。
オープン・イノベーションのために情報発信し、技術導入を仲介企業と取り組む
オープン・イノベーションのための情報発信-自社でどこまで出来るか?
現在、オープン・イノベーションを推進する部署を設け、外部から情報収集を行うためのWEBサイトを自社で設けている企業が数多くあります。オープン・イノベーションのためのWEBサイトでは、P&G社の「コネクト+デベロップ」や、Kraft社の「Collaboration Kitchen」などが有名である。

P&G社の「コネクト+デベロップ」では、同社のニーズが公開されており、消費者調査の方法や、製品の品質評価のための技術、容器、素材まで様々なアイデア、技術を募集している。同サイトによると、「コネクト+デベロップ」の米国サイトを通じて協働技術開発の提案があったことをきっかけに、局所抗菌治療の専門会社 Syntopix社との協働技術開発に合意するなど、このプラットフォームを活用してイノベーションを生み出している。

「技術導入」におけるオープン・イノベーションの仲介サービス
このように各社が自ら運営するWEBサイト以外にも、オープン・イノベーションを仲介する様々なサービスがある。弊社が業務提携をしているナインシグマ・ジャパンは、企業の外部技術の活用をサポートしている。既存のネットワークだけでは解決できない、リソース的に手が回らない技術課題に関して、オープンにグローバルに広く技術を求めて提供するという特徴をもっている。同社は自社のWEBサイト上で、現在募集している技術を公開し、他企業や大学、研究機関などから広く探索している。
彼らに仲介を依頼することで得られる利点が二つある。
一つは、ナインシグマがリーチ可能な、200万人規模の研究者・技術者のネットワークから、解決策を持つことが期待できる人物を数千人規模で特定し、メールで提案提出を呼びかけるという活動だ。世界中の技術を収集することができる上に、テーマによっては異分野の組織にも幅広く提案を呼び掛けるため、これまでリーチが困難であった分野からの提案についても期待することができる。
もう一つは、ナインシグマが「技術を求める企業の代理」として募集を行うことが可能なため、匿名性を保持することができるという点である。
彼らのサポート範囲は、技術探索だけではない。オープン・イノベーションにおいて企業が最も頭を悩ませる、「どの領域を自社が自ら開発し、どの領域を外部から吸収するのか」という命題に対して方向性を決めるサポートを行っている。
特定の領域における技術開発動向や主な開発組織を、グローバルにより網羅的に把握することにより、「新規領域や新規市場へ参入するべきかどうか」、「新しい技術分野へ投資すべきかどうか」、「将来の協業パートナー候補としてどのような組織が考えられるか、またどのような協業形態が考えられるか」、「世界のどの地域に開発拠点を置くべきか」といった、戦略的な意思決定の支援も行っている。
たとえば、ある飲料メーカーの事例では、研究開発の新規領域として、生活習慣病を予防する飲料を検討しており、世界中のあらゆる生活習慣病を予防する研究のうち、飲料に応用できる研究の全体像を把握し、その上で自社が自ら、もしくはパートナーと進める領域の絞り込みを希望していた。
そこでナインシグマ・インテリジェンスのチームが、鍵となる発展途上の先端技術を探索し、「効果の科学技術的な信頼性」「実用化のタイミング」「飲料化の可能性」「想定コスト」などの視点で評価した形でとりまとめ、提出した。
結果、メーカー側では、
- 自社が進めたいと考えている領域における技術の全体像を把握することができた
- 将来の事業機会や潜在的なパートナーについて理解することができた
といった成果を得たという。
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高松 充(タカマツ ミツル)
株式会社TBWA博報堂 CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー) Human Centered Open Innovation(HCOI)事業の統括責任者。 博報堂にて営業職、在米日本大使館駐在を経て、経営企画職を経験。 博報堂DYグループの社内ベンチャー制度の審査委員な...
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