前回まで都市機能の重点分野として環境、エネルギーや都市の社会資本やビルのスマート化について連載してきました。スマーター・シティーは、都市の複合的な問題に対して、それぞれの分野のスマート化だけではなく、各分野の情報を統合、連携することによって真価を発揮できます。最近話題のオープンデータもまずは各分野の情報が開示されてはじめて様々な分野で新しいアイデアによって活用されますが、それは統合・連携される情報ソースが開示されることの重要性に他なりません。今回は各分野の情報を統合して安心・安全な都市づくりを実践している世界の先進事例を紹介します。
都市の複合的な問題の解決には、様々な情報の「統合」と「連携」が必須
人口が集中する都市部には、戸建て、マンションといったそこに暮らす人々の住宅があるだけではなく、商業施設や学校、病院といった付帯施設や、バスや鉄道といった交通網、電話やインターネットといった通信網、電気・ガス、水道といったエネルギー供給網等が当然ながら整備され、そこでより便利で快適な生活を営んでいくために必要なサービスが提供されています。
その一方で、これら設備や生活を支えるサービス提供網が集中し相互に連携をしているがゆえに、ひとたび大規模な事故や災害が発生した際には、その影響が一箇所にとどまらず、障害の連鎖が起き、複合的な二次災害、三次災害を引き起こす危険性が高まります。そのため、都市部全体でどのような事象が発生し、それらが他のどの付帯設備や提供サービス網に影響があるのか、またどのようなかたちで関連部局、組織と連携をとり迅速に状況を把握し、対応策を講じていくのか重要になってきます。
ところが、実際のところは、災害発生時には、各施設やサービス提供者ごと個別に障害の発生状況を把握し、施設間の影響や施設をまたいで連携をとりながら意思決定、対策の実施を行っていくということはまだまだできていないのが実情かと思います。
ここで、非常に簡単な例を考えてみましょう。例えば、ある地区に設置されている消火栓に不具合が発生していたとしましょう。その不具合の修理が完了する前に、その近辺で火災が発生した際、消防車が出動して消火活動を開始する前に、消火栓の不具合が発生し修理中であることを事前に把握する仕組みが整備されていれば、普段よりも長いホースを積んでいく、放水車とともに出動するといった判断をし、現場で迅速に消火活動にあたることが可能となります。一方で消火栓の不具合についての情報を把握せずに急行した場合には、現場に着いてからの対応に遅れが生じ被害の拡大を招いてしまう恐れがあります。
あくまでもこれは、簡単な想定例ですが、このようなかたちで、複数分野の関連情報が参照でき、実際に街の中で起きうる複合的な問題に対して、どのようなインパクトがあるか適切な判断が下せるような統合インフラ、オペレーション・センター機能の整備は、より安全で快適な生活を人々に提供するうえで重要であり、都市化が進む中ではより重要性が高まってくる機能といえるでしょう。
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小林 誠士 (コバヤシ セイジ )
日本アイ・ビー・エム株式会社 スマーター・シティー事業 部長 社会インフラ事業開発担当。同社東京基礎研究所にて著作権保護技術の研究開発に従事後、オートノミック・コンピューティング等先進技術を活用した新規ビジネス開発推進部門やソフトウェア開発部門を歴任。2008年よりクラウド・コンピューティング事業の...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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