アントレプレナーを惹きつけるシリコンバレーのダイナミズムと期待感
「エンジニアのパラダイス」とも呼ばれるシリコンバレー。北カルフォルニアの片田舎といった感のある”この地”で、なぜ世界的なベンチャー企業が次々と立ち上がっているのか。
モデレーターの伊佐山氏は「日本1200億円、米国3兆円」というベンチャーキャピタルの投資金額についてデータを示し、「エンジェル投資家による出資2兆円も加えると、5兆円を超える資金の大半がシリコンバレーに集中しており、大きな牽引力になっている」と解説する。それは米国GDP比の1%にも満たない額。しかし、その資金をもとに成長したベンチャー企業のGDP貢献度は20%を越え、民間雇用の10%を創出するまでになっている。
時価総額で言えば、Googleが37兆円、2000年以降創業の米国ベンチャー5社で23兆円にもなる。一方、日本の1000億円を越えるベンチャーを合わせても時価総額は9兆円程度。裏を返せば、ベンチャーには環境と育て方次第で急成長するポテンシャルがあるという証明でもある。パネリストをはじめ、シリコンバレーに渡った日本人の多くはこうしたダイナミズムに惹かれたと言っても過言ではないだろう。
東証一部上場のソースネクスト株式会社の代表取締役社長を務め、今はシリコンバレーに居を構える松田憲幸氏もその一人だ。「300万人に満たない小さな街に、合わせて100兆円以上の時価総額を占めるベンチャーが3社もある。その密度を見れば、ITベンチャーなら行かない選択肢はなかった。長い出張ほど有意義なアライアンスが実現し、住んだらすごいことになると思った」と振り返る。
同様に「ビジネスチャンスを感じた」というのが、日産自動車を経て、電動車いすを開発するベンチャーであるWHILL株式会社を創業した杉江理氏だ。杉江氏は「市場の大きさ」を魅力としてあげ、「モーターショー出展後、米国からの問い合わせが急増し、調査の結果、日本の約15倍もの市場が見込めることが判明した」とその経緯を語る。さらに、その特性として新しいものを好む「アーリーアダプター」が多いこと、そしてオープンな人が多くインタビューしやすいことから、ベンチャーの商品開発には最適な環境であると判断したという。
一方、さほど気負わずに来て、居心地の良さに住み続けるという人はかなりの割合でいるという。エバーノート日本法人会長の外村 仁氏も「もといたAppleの友人に誘われ、盛り上がってたから行った」と語る。なんとなく行きながらも、来てみると常に刺激的で飽きることなく、周囲のサポートも得やすいことから居着いてしまったというわけだ。
芳川裕誠氏も三井物産に勤務していた際に、シリコンバレーで駐在員として生活し、いつしかベンチャーの魅力に引き込まれた。エンタープライズソフトウェア向けの投資事業を通じて、現地のベンチャー企業のメンバーと交流するうちにビジネスチャンスがあり、「一度の人生、後悔したくないという思い」から起業に至ったという。