システム開発失敗の大半は要件定義の問題
実際のところ、コンピュータの機能や性能をもれなく矛盾なく整理して日本語で伝えるというのは、どこの会社でも苦労しているところで、以下のような調査結果も出ています。
少し古いデータではありますが、システム開発の失敗のうち実に9割が要件定義に関するものだとする調査結果です。2008年に実施された日経BP社による調査では、システム開発の7割強が失敗に終わると言われていますので、両者を掛け合わせて考えると、システム開発は、6割以上が要件定義を原因として失敗しているということになります。つまり、システム開発を2度経験して、2度とも要件定義がすんなり終わったとすれば、それは東京六大学野球で東大が早稲田や慶応に2連勝するくらい、希有な例だということになります。(つまり大ラッキーというわけですね。)
もちろん、この2つの調査は調査の対象や時期も違いますし、調査者も異なりますので、こんな単純な掛け算で何かを結論づけることはできませんが、「要件定義がうまくいかなくて、プロジェクトが失敗した」という話は、裁判所でも本当によく聞く話で、以下のような裁判を初めとして、それこそ星の数ほどの紛争やトラブルが起こっています。
【要件定義の不備が原因となった裁判の例】
(東京地方裁判所 平成17年4月22日判決)
あるユーザが書籍在庫管理システムの刷新することを計画し、既存システムの機能に新機能を追加して要件定義を行ったが、既存システムの一部機能 (個別出版社対応機能)を明確に要件として定義していなかったため、ベンダは、この部分を作らなかった。
納入直前にこのことに気付いたユーザは、急遽ベンダに依頼してこの機能を追加し、システムは完成したが、完成後ベンダから追加費用を請求されたユーザは、この追加機能は、要件として定義しなくても既存システムの機能である以上当然に実装されるべきもので要件追加ではないとして、支払いを拒んだ。
これに対してベンダは、 “個別出版社対応は追加要請分であり費用を支払うべき” と主張して裁判となった。
この裁判の判決が、どのようなものであったか、そこから得られる知見がどのようなものであったかについては次回以降にご説明したいと思いますが、裁判にまで発展しなくとも、要件定義を巡るトラブルが本当に多いことは、私自身の経験に照らしても、(もしかしたら読者の皆さんの実感としても) うなずけるところかもしれません。