ボトルネックをいかに解消するか
いよいよ製品のお披露目である。今年2月「企業の最大の資産はデータであり、その価値を最大化する」との理念を掲げ、データサイエンス専門ベンダーとして起業したデータビークルが最初の製品「DataDiver」を発表した。製品を解説したのは同社取締役 西内啓氏。統計家であり、データサイエンティストの顔もある。
西内氏は開発の背景から説明した。昨今では「ビッグデータ」という用語は定着したものの企業が持つデータを分析したくても「どうしたらいいかわからない」と戸惑う担当者が多いそうだ。理想と現実の間にギャップがあることも1つの原因となる。理想的には企業内のデータを分析するには、PDCAサイクル同様に企業内のデータから現状の分析、改善、現場へのフィードバック、データ(に反映)を繰り返し回転させていくことになる。
しかし現実はそうならない。サイクルの途中にいるステークホルダーが流れを止めてしまい、サイクルが回らなくなってしまうからだ。例えば意思決定者には「数字よりも長年の勘が大事」と分析結果に抵抗感を示す人も少なくないそうだ。エッジの立った分析結果が出せても、数字が苦手な意思決定者に配慮して角を立てないような提案にしてしまうと、今度は担当者や現場が納得しないものとなってしまう。
データ分析の専門家が現場や実務を知らないまま分析してしまうと、適切な結果にならないこともある。加えて、データ連携も技術的な課題となる。社内のデータを集約したくても使用しているシステムが異なるとデータを集約できない。壁が多くてシステム担当者は途方に暮れてしまうというわけだ。「ボトルネックをいかに解消するかが重要です」と西内氏。
データ分析の成功事例として西内氏はAmazonを挙げた。Amazonはデータ分析を機械学習で自動化することにより、サイクルをうまく回転させることができているのだという。しかしAmazonはECサイトである。企業や商店のようにリアルな人間が多く介在するようなところではなかなか同じようにはできない。
重要なのは現場の担当者が自ら分析できるようにすること。実は現場の人間が分析するのは新しいことではない。コンピュータが登場する前から、日本の製造業などでは現場が文房具を用いてデータを測定し、電卓をたたき、紙の方眼紙にグラフを描き、それらを分析して改善策を編み出すということを繰り返してきた。
西内氏によると自動車メーカーのトヨタも現場が分析することでカイゼンにつなげているという。トヨタでは統計学の知見がある社員が多くいて、その数は実に800人。特定の部署に集中しているのではなく、各部署に散らばっている。統計学も駆使して分析できる社員は「世話人」として各部署における分析を支援する。分析手法は一定の「型」にまとまっているため、直接関係のない部署の人間が見ても理解できて参考になるのだそうだ。そうして生まれたカイゼンの提案が事業部から地区、そして全社へと波及していく。
現場の人間がデータ分析できるとデータの意味もより理解できる。例えば品質管理。外部の人間が品質の推移から特に品質が悪い日を見つけたとする。それを現場に伝えても、外部の人間から指摘されると現場は「以後、気をつけます」と反省の弁を述べて終わってしまう。しかし現場の人間が自らデータ分析すると「そうだ、この日は○○さんが休みで作業手順を変えたのだった」と直接の原因に気づく可能性が高い。時には「本来推奨されない手順だったが試してみたら、意外といつもよりいい効果が得られた」なんてこともあるかもしれない。現場の人間がデータ分析ができればデータをより正確に読み解けて、改善につなげることができたり、ひいては会社の利益へと導くことができる。
「トヨタでうまくいく理由には、現場レベルで統計学が浸透していることと、世話人が道具を整備していること。さらに品質向上というゴールが明確であるということです」と西内氏は言う。もうひとつ大切なことがある。分析技術や手法はいろいろあれど、手段にばかり目を向けてしまうと目的を見失いがち。西内氏は「月を見ながら林を歩くことです」と言い、分析をするときには目的を見失わないようにすることも大切だと説いた。