
今回登場いただくのは、プライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)のサイバーセキュリティ分野のコンサルタントである林 和洋さん。大学時代は、情報工学部に籍を置いていた。時代はちょうどWindows 3.0から3.1が登場する頃。インターネットの普及も始まり「WebブラウザのMosaicで、さまざまなWebサイトにアクセスしていました」と振り返る。Windows 3.1の頃は、インターネットで標準的に用いられる通信プロトコル「TCP/IP」が標準では装備されていなかった。なので、ネットワークを利用するのに「Chameleon TCP/IP」というソフトウェアを使っていた。
スキルの始まりはTCP/IPソフトウェアの営業
使い馴染んだ製品だったこともあり、就職先に選んだのはChameleon TCP/IPの輸入代理店だった。職種はChameleon TCP/IPやファイアーウォール製品の営業担当。当初、Chameleon TCP/IPはよく売れたが、その後WindowsにTCP/IPが標準で搭載され売れなくなる。逆にインターネットの専用線などの利用が増え、ファイアーウォールの需要は増加する。そこで、本格的なファイアーウォールビジネスの立ち上げを担当することに。ここから、林さんのセキュリティの世界が始まる。

「立ち上げ時は苦労もありましたが、ファイアーウォールが市場に浸透し始め、アプライアンスが出ると爆発的に売れ始めました」
ファイアーウォールの販売先の窓口はエンジニアだ。対等に技術的な話ができないと買ってもらえない。そのため、営業担当だったけれど、必要なネットワークやセキュリティの知識を身につけることに。さらに顧客先に出向いてラックにアプライアンス機器を設置しインストールやセットアップなども実践した。
「Chameleonの営業で、OSIの7階層を説明できるような知識は身につけていました。それがファイアーウォールの営業でも役に立ちました。最近はあまりOSI 7階層なんて話は出てこなくなりましたが、実際にセキュリティ・オペレーション・センターのようなものを立ち上げる場合には、TCP/IPやOSIに関連することが分かっているかどうかは大きな違いです」
コンサルタントとして文章を書く難しさを知る
27歳くらいの頃には会社の営業成績はかなり良かったという林さん。
「営業成績はトップでした」
とはいえ、そういった順調な仕事ぶりとは裏腹に「このまま営業の仕事でいいのか」という漠然とした不安もあった。そんなときに考えたのが「コンサルタントってかっこいいかな」ということ。当時はセキュリティポリシーという言葉が出てきた頃で、企業における網羅的なセキュリティ対策を先頭に立って進めるのがコンサルタントだったのだ。
そこで決意し、大手会計事務所系のリスクコンサルティング会社に転職することに。担当はもちろん、セキュリティコンサルティングだった。
そんな林さんがコンサルタントになって最初に苦労したのが文章を書くことだった。コンサルティングの仕事は、文章書きが仕事の大部分を占める。
「苦労して書いた文章を先輩上司に見せても、ぱっと見てすぐにダメ出しでした。量をたくさん書いてもダメ、漢字が多くてもダメ、接続詞を使わなくても分かる文章を書けと厳しく指導されました。なかなか先輩からは修正の『赤字』さえ入れてもらえず、繰り返し書き直しを強いられました(苦笑)」
3年間くらいはかなり苦労した。より良い文章を書くために何度も徹夜をした。うまくいかずにトイレで悩んだことも。とはいえ、文章の品質がコンサルティングサービスの品質につながる。
「時間いくらの仕事をする世界の厳しさをたたき込まれました。ここで、いかにして良いものを作るかを身につけました」
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア