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数学少年、データサイエンティストになる― PwC 勝山公雄さん


 プライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)のアナリティクス センターでデータサイエンティストの仕事をしている勝山公雄さん。彼が数字に興味を持ち始めたのは、小学校3年生だった。

偏差値98の数学少年から始まった

勝山公雄さん
勝山公雄さん

 ある日、友だちの塾に付いて行った。見学したその塾では、1枚の紙にたくさんの問題が並んでいてそれをどんどん解く勉強方法だった。間違えても何度かやれば満点がとれる。そんな勉強の様子を面白そうだと感じ、勝山さんはその塾に通うことにする。

 ひたすら問題を解くのが面白かった。塾では学年の勉強範囲にはこだわらず、できる人にはどんどん上のレベルの問題をやらせていた。塾の勉強にのめり込んだ勝山さんは、6年生で中学3年生の問題をこなしていた。

 中学生になると、少し数学への興味は薄れた。とはいえすでに中学範囲まではやり終えていたので、成績はいつも満点レベル。ところが高校に進学すると80点くらいに下がってしまう。80点も悪い点数ではない。しかし勝山さん的には「これじゃあダメ」だった。

 再び満点を目指し数学の勉強を再開。着実に学力は復活し、高校3年時にはある数学のテストで偏差値98をマークする。

 「偏差値98とかないでしょうと思うかもしれません。しかし統計のベンチマークなので、偏りが大きければこういう数値も出ます。統計を理解しているので、偏差値でこういう数字が出ることはおかしくないとすぐに理解できます」

 大学は理工学部で電気電子工学を専攻した。卒業研究対象は光CT(Computed Tomography)。これは、赤ちゃんなど、放射線を照射したくない人のためのCTだそうだが、いまだ実用レベルには至っていないという。

 研究の延長で医療機器会社に就職するつもりが、たまたま参加した外資系ソフトウェアベンダーの説明会のインパクトにやられてしまう。この会社は当時400人くらいの規模。大企業に行きたくなかったこともあり、この会社を就職先に選んだ。

 就職した企業の主力製品はデータベースだった。とはいえ勝山さんはそのことを意識しておらず、入社後の研修で理解することに。

 「データを見るのが好きな自分にとって、最適な会社だなと思いました。研修で出会ったのが、分析用データベースのOLAPサーバー。研修中もこれを扱うのが一番楽しく、自分で多次元データベースを試しに作ってみたり。それがきっかけで、配属後もOLAPサーバーやBI製品の担当になりました」

 これが勝山さんのアナリティクス世界への第1歩だった。

実データを使った分析を数多く経験

 配属後しばらくして、データウェアハウスに関する米国のカンファレンスに参加するチャンスが巡ってくる。そのカンファレンスには、多次元データモデルを提唱したラルフ・キンボール氏など業界の著名人の講演があった。

 「キンボール氏の講演では、ただデータが入っていればそれでデータウェアハウスが完成するのではなく、入っているものを取り出し活用するところまでだと説明されました」

 OLAPサーバーの機能がどうこうではなく、それをどう活用すればいいのか。このカンファレンスへの参加が、もっと具体的なデータ活用の仕事がしたいと考えるきっかけとなった。

 カンファレンスから帰国した後に、企業のリスクマネジメントを行う案件があった。社内的にはOLAPサーバーを導入すればいいだろうとの話になっていたが、たんにOLAPサーバーを入れるだけではなく利用シーンまで考慮すべきと勝山さんは考えた。そこで、サーバー導入だけでなく利用部分も含めデモを作り顧客に提案。顧客からそれが高く評価され、すぐに製品導入が決まった。

 この利用シーンまで含めたデモを作り提案するアプローチは、顧客に対し分析手法を具体的に提案するものだ。これは、データウェアハウス製品販売の部署よりも、CRMのようなソリューション提案をする部署の管轄だろうと、勝山さんは社内異動することになる。

 CRMの部署となり、とにかく企業のリアルな顧客データで分析がしたいと考えた。そこである会社に無償でいいのでリアルデータを使って分析をさせて欲しいとお願いする。それが運良く了承され、顧客属性を中心にセール情報などから顧客のライフサイクル軸を取り込み分析を行った。これは、いまで言うならばカスタマージャーニー分析であろう。

 「このときはかなり具体的な分析を行い、現場のお店ともつながる形で解析しました」(勝山さん)

 訪れる顧客にどんな商品を推奨するかまで具体的に導きだし、それを使うと売上げが向上する成果も見られた。とはいえ、残念ながらそれ以上のビジネスにはこの案件は発展しなかった。しかし、別の自動車メーカーでこの経験を活かした提案を行い、その会社のCRMグランドデザイン案件の獲得につながる。これらの動きは2001年のことだ。いまほど個別の顧客にフォーカスしたデータ分析が、それほど注目されていない時期でもある。

 「この頃からコンサルタントのような動きをするのが、自分のスタイルになっていました。提案には、こういうシーンではこういったデータを見たらいいといったことがどんどん入るようになっていきました」

 まさに、彼がコンサルタントとしてのスキルを身に付けた時期だ。

 2003年になり新たなミッションが下る。BIチームの立ち上げだ。社内には以前も製品販売を目的にしたBIチームはあった。対して新チームではCRMの部隊で実践して来たような、具体的なデータ活用サービスを立ち上げることにした。

 「5年ほどの間に、100社くらいの顧客の実データやそれに近いデータを用い分析を行う機会がありました」

 この数多くの分析の経験から、多変量解析のような統計解析手法は、あくまでも「道具」だと捉えるようになる。

 「統計解析の手法などは、ものを作る際の金槌やノコギリのようなものです。道具はなければ困りますが、道具、つまりは手法から入るのではなく、顧客のビジネスシーンから入るのがデータを活用するには重要と考えるようになりました」

 統計解析手法ありきではなく、あくまでもどうやって顧客のビジネスを向上させるかをまずは考える。そのための分析道具は何がいいかを選ぶのだという。

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製品ベンダーでデータ活用を提案するモヤモヤ

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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