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週刊DBオンライン 谷川耕一

BIやアナリティクスはアクションビルトインへと進化する


 Apple Watchの小さな画面でアナリティクスの結果が見えるなんて、マーケティング的なインパクトを得るためのデモンストレーションに過ぎないと思っていた。あのちっぽけな画面で売り上げ動向のグラフが見えたり、これから訪問する顧客のステータスが確認できたり、実際にはそんなことは必要ないはずだと。とはいえ、今回セールスフォース・ドットコムの年次イベント「dreamforce 2015」に参加してみて、そんな世界もありなのかなと思うようになった。

Waveはクラウド型アナリティクスなだけでなくアクションビルトインだ

 セールスフォース・ドットコムのAnalytics Cloud COO ステファニー・ブースチェミー氏は「データサイエンティストでなければ使えないようなアナリティクスではダメです。ビジネスユーザーが仕事の中で使える、iPadでも使えるものが必要です」と言う。

セールスフォース・ドットコムのAnalytics Cloud COO ステファニー・ブースチェミー氏

セールスフォース・ドットコム
Analytics Cloud COO ステファニー・ブースチェミー氏

 昨年のdreamforceで、同社はWaveという新たなアナリティクスのサービスを発表した。その時にはSalesforceの中の状況を「見える化」するのにはいいサービスだけれど、それ以上のものではないなと感じていた。ところがブースチェミー氏は、Waveは仕事の中で使えるアナリティクスだと言い、そのためにこれを提供したのだと説明する。

 「Waveは、Salesforceの中のデータだけでなくさまざまな分析が行えます。そして、たんにそこから知見を得るだけではなく、アクションがとれるのです。アクションがビルトインされているのが特長です」(ブースチェミー氏)

 Waveの画面からアクションがとれる。CRMやSFAなどの状況を見える化した結果から、行うべきタスクを同じ画面の中で作ることができる。そしてタスク実行のために関連するメンバーと連絡をとりたければ、やはり同じ画面の中でクリックするだけで実現できる。また、すぐに顧客を訪問するために外出したとしても、移動中もiPhoneで同じようにタスクのステータスが見て取れる。なので、またそこから新たなアクションをとることも可能になるわけだ。当然ながら、iPhoneでもPCのWeb画面と同様な作業が可能だ。

 タイムリーなアクションがとれるようにPCのWeb画面はもちろん、iPadなどのタブレットでもiPhoneのようなスマートフォンでも、そしてApple Watchのようなウェアラブルデバイスでも同じように使える必要があった。なのでマーケティングの飛び道具的に「Apple Watchにも対応しました」と言うのではない。今回、実際にApple Watchを利用するデモンストレーションが実現できているとことは、かなり興味深かった。

BIやアナリティクスの仕組みを意識せずにデータを活用する

 ビッグデータブームから後、BIやアナリティクスに注目が集まっている。そんな中では、気軽に素早く分析を始められるクラウド型のBIサービスが人気だ。大きな投資をせずともすぐにBIを始められるのは、確かに魅力的。手許にあるExcelのデータなども簡単にクラウドに上げて共有でき、データ活用シーンの広がりが感じられる。

 クラウド型BIサービスを活用すれば、これまで週次や月次の売上げレポートをExcelで作っていたような世界から脱却し、大きな投資をせずにインタラクティブなBI環境に移行できる。便利で使い勝手がいいものが多く、クラウド型のBIサービスは投資対効果を出しやすいソリューションとなっている。

 とはいえ個人的な感想としては、なんとなく物足りないところもあった。と言うのも、データ活用の世界がオンプレミスからクラウドに移ったメリットは大きいと感じるが、それ以上の革新があまり見当たらない気がしたからだ。もちろんクラウド化のメリットだけでも、BIツールの社内展開に苦労していたような組織にとっては大きな進歩ではあるのだが。

 Waveも当初は、このクラウド型BIのサービスにセールスフォース・ドットコムも遅ればせながら参入したくらいにしか思っていなかった。ところが今回キーノートやデモンストレーションに見たのは、それよりも進化したデータ活用シーンだった。キーワードは前出の「仕事の中で使えるアクションビルトインのアナリティクス」だ。BIでもPDCAとはよく言うが、実際のアクションとはツールは分断していることが多い。

 「アナリティクスでは、アクションが起こせるデータの提供が重要です。Waveを使えばリアルタイムでアクションが起こせます。Waveはさまざまなデータを扱え、マーケティングのデータなども取り込めます」(ブースチェミー氏)

 CRMやSFAなどのアプリケーションは、クラウド化されたことで営業担当者なりが仕事の中で日常的に利用するツールになった。Waveはそういった日常的に利用するツールにアナリティクスを加える。そしてCRMの業務の中にアナリティクスがあり、またアナリティクスの画面からCRMやSFAで行いたい処理へとシームレスに移行できる。おそらくマネージャーや現場営業担当者なりは、BIやアナリティクスを利用していることを意識せずにWaveを使うだろう。さあこれから分析をしましょう、そのためにWaveというアプリケーションを立ち上げましょうという段取りは必要ないのだ。

 繰り返しになるが、この仕事の中にアナリティクスをシームレスに組み込むには、今後はApple Watchのようなウェアラブルなデバイスも活用することになる。たんに「マルチデバイスに対応しました」ではなく、CRMやSFAを使った業務を切れ目なく進めるにはさまざまなデバイスでWaveが使える必要があったのだ。

 日常の仕事の中にBIやアナリティクスをビルトインできるのは、CRMやSFA、あるいはERPなどのサービスを持っているベンダーならではのことだろう。それができるのは今ならSAPやOracle、あるいはマイクロソフト、NetSuite、そしてセールスフォース・ドットコムといったベンダーだろう。BIやアナリティクスを意識せずに、データを活用しアクションを起こす。今後のBI、アナリティクスでは、アクションと一体化していることが重要な鍵となる。

 逆に考えると、現状で人気のあるクラウド型のBI、アナリティクスのサービス進化の方向性は、いかにして業務の中にBIのサービスを溶け込ませることができるかになるだろう。ビッグデータのための分析ツールという役割ももちろんあるが、業務の中でビジネスユーザーが日常的に利用できるか。そしてそこからアクションに結び付けられるのか。クラウド型のBI、アナリティクス・ツールも、使いやすさの追求から次なる進化が求められつつあるようだ。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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