番号は、給付と負担の公平性を確保するために必要だった
「番号というものは、そもそも民間でもさまざまなものが使われています。番号は、事務処理の効率化を行うものです。ITを使って効率化する際にも、番号が使われています」(向井氏)
なぜ番号が必要になるのか、そこにはたとえば日本人の名前の問題がある。氏名は通常は漢字で表記される。しかしながら戸籍には「ふりがな」はない。漢字だけでは、同姓同名を判断するのは難しいことになる。そのため、番号なりがないと個人を区別できないことも多いのだ。
では、国民をきちんと区別できるようにすることが、なぜ必要になったか。このきっかけもまた、民主党政権の際に出てきた「給付付き税額控除」を実現するためだった。これは、国民の所得に反比例して給付金を払うような仕組みだ。そのためには「リアルに所得を把握する必要があります」と向井氏。この所得の把握のために番号が必要になったのだ。
「マイナンバー本来の目的は番号に付随する利便性の向上ですが、少子高齢化を迎える中で給付と負担の公平感を出すためにも必要なものです。給付の基準となる所得は、公平公正でなければならないところから、マイナンバーは生まれました」(向井氏)
番号は個人を特定するものであり、日本で個人を特定するには戸籍と住民票の2つの方法がある。親子関係などは戸籍で分かるが、住所地は分からない。逆に住民票では住所地は分かるが親子関係などは分からない。パスポートは戸籍ベースであり、それ以外のものはたいてい住民票ベースで個人を特定している。マイナンバーは税と社会保障が対象だったので、「住民」という観点がある住民票データを使って採番されたのだ。
個人を特定する番号としては、すでに住基コードがあった。こちらは、行政府内で使われてきた番号であり、マイナンバーを新たに設けずにこれを使う手もあった。しかし「1つの番号ですべてやるというのも何なので、新たな番号をとなりました」と向井氏。
番号だけでは何もできない
番号は必ずITと結びつくものだ。なので、マイナンバーの活用は、必ずIT化を含めた効率化とセットだ。マイナンバーは住所、氏名をさらに特定するものであり、番号を使うことで一意に個人を特定できるようになる。これを使うことで、正確な名寄せが可能になる。マイナンバーを利用する範囲は、社会保障や税の手続き申請などだ。その他には預金口座との紐付けなども挙げられているが、こちらは3年後に予定されておりいまのところは任意だ。
2015年11月から、順次マイナンバーの「通知カード」が届けられている。これの受け取りを拒否しても、ペナルティなどはない。このカードはたんに「番号の通知」であり、受け取りを拒否しようがしまいが符番はすでに行われている。
日本のマイナンバーと諸外国の番号制度の大きな違いは、番号だけで本人であることを証明する仕組みにはなっていないこと。つまりは、マイナンバーだけでは、個人情報の取得や手続きなどは一切できないよう法律で規定されている。必ず番号と共に本人確認が必要だ。なので「番号だけが漏洩しても、それだけで何かが漏れることはありません。もちろんマイナンバーそのものは極めて個人を特定しやすいものなので、不正使用、管理には厳しい罰則が定められています」と向井氏は言う。
マイナンバーは「誰々が、何々に使えるか」が法律で定められている。たとえば年金に関することなら「年金機構」が、「何をできる」が規定されている。それで得た情報を、そのまま税金でも使うことは法律で規制されている。ただし例外もあり、情報は連携することがある。たとえばその1つが税に関する情報の1つである所得情報を年金機構に提供することがある。これは、所得の少ない人に対し国民保険料の免除などの手続きに使われる。この情報連携は、従来は紙でやり取りしていたものだ。それをマイナンバーに置きかえITでやるようにした。「マイナンバーが新たに登場したからと言って、新たにマイナンバーを使う手続きが増えるわけではありません」と向井氏は指摘する。
こういった連携は、裏側のITの仕組みで行う。紙のやり取りで行っていた際には、完璧な名寄せができなかったり情報が正確じゃなかったりもした。それがマイナンバーを使うことで完璧に行えるようになるわけだ。