誰が為に資料を作るのか?
「おい、この資料作ったのは誰だ!」
これはある会議室での出来事です。部長報告会で発表するためにAさんが作った資料がプロジェクターで投影されたときに、今まで黙って耳を傾けていた部長が突然声をあげました。
「お前はこの資料でいったい何を伝えたいんだ? 私にはさっぱり分からんぞ!」
そう言われてもAさんは部長が何を言いたいのかさっぱり分かりません。部長が知りたい情報は全てこのスライドに書いてあるのに「分からない」とはどういうことなんだろうと疑問に思うAさんに対して部長は続けます。
私が知りたいのは地区単位での売り上げ比較だよ。
それなのにこのスライドには店舗の製品単位の売り上げを
ギッシリと書いてあって、私の知りたいレベルで全然書かれていない!
これはよくあるコミュニケーションギャップの典型です。
Aさんの感覚では、地区単位の中身を詳しく理解するためには、店舗とそこで扱っている製品の情報も一緒に提示した方が分かりやすいのです。しかし、部長にとっては地区単位よりも細かい単位で情報を知る必要はまったくなく、Aさんの提示した情報の大半はノイズにしか映りませんでした。
他にもこんな話があります。
あるプロジェクトでは新規システムの要件定義に着手しようとしていました。要件定義とは、業務ユーザがどんなことをどんなふうにシステムで実現したいのかを取りまとめて、必要な機能を具体化していく作業です。
この要件定義のなかで、外部からきたコンサルタントは国内外の優れたコスト効率化事例を振りかざして、こうあるべきという業務とシステムの姿を懸命に説明していました。そのため、毎日毎日何十枚というスライドを作成してはクライアントに説明を続けます。
しかし、クライアントの反応は芳しくなく、一向にコンサルタントの話に乗ってこようとしません。それもそのはず。クライアントにとっての関心ごとは今の業務スタイルをできるだけ変えずに、効率的な業務を実現するシステムの構築だったのです。海外の最新事例を出されて「先端企業ではこのような取り組みでコスト削減を行っています」という話をされても、それはクライアントが望んでいるものではないのです。
Aさんの話とコンサルタントの話に共通しているのは、相手が望んでいる視点で情報を提供していなかったという点です。別にコンテンツの質が悪かったという訳ではありません。Aさんの資料は店舗単位で売上改善を検討する場であれば大変有用だったでしょうし、コンサルタントのスライドもコスト改善を求めているクライアントであれば有効に活用していたことでしょう。
どんなに優れたファシリテーション技術を持っていようと、議論の道筋となる会議資料が適切でなければ会議を成功させることはできません。山を登るために世界地図を出しても意味が無いのと同じです。