先週はOracle OpenWorldの取材のためにサンフランシスコに行っていた。OracleがIaaSの市場に本気になりAmazon Web Services(AWS)を名指しでライバル視したことが今回もっとも大きな話題だった。ところでCTOとなったラリー・エリソン氏がIaaSをやると言ったのは、昨年のOracle OpenWorldのことだった。この時は、SaaSを始めたらカスタマイズなどのためにPaaSが必要になり、さらに顧客の既存のIT資産を活用するにはIaaSも必要になるからやるのだと。なのでどちらかと言えば、顧客が欲しいと言うからIaaSも「仕方なく」やるのだという雰囲気もあった。とはいえ、やるからには価格的にも競争力のあるものを提供するとラリーは主張していた。
データベースのベンチマーク比較でAWSを徹底攻撃

それから1年の時が過ぎ、今年はラリーが王者AWSに食ってかかって見せた。以前は、世の中にあるさまざまなクラウドの中で、「Elastic(伸縮性)」のある本物のサービスはAWSとOracleくらいだと言っていたのに。ここに来て今まで賞賛こそすれ、ライバル視してこなかったAWSに牙を剥いたわけだ。
今回徹底的にラリーがやり玉にあげたのが、価格もさることながらクラウド上で動くデータベース性能の部分だった。まあ、データベースのOracleなのだから、ここは一歩も譲ることができないのだろう。別の面から捉えれば、IaaSで勝負すると言いながらも比較したほとんどはデータベース性能の部分だったのだ。
まず取り上げたのが、AWSの上でOracle Databaseを最も速く走らせられる構成とOracle CloudでOracle Databaseを走らせた場合の比較だ。「Oracle CloudはAWSの24倍の速度が出る。これはOracle Cloudであれば1時間で済むものが、AWSだと24時間かかることだ。この速度の差はコストでも大きな差となるだろう」とラリー。この比較は、データベースのアナリティクス処理の結果だ。
まあ、これは、自社のIaaSなのだからOracle Databaseに最適化されているのも当たり前だ。ではAWSのアナリティクスのデータベースサービスであるRedshiftと比較するとどうなるのか。これについても、105倍Oracle CloudのDBaaSのほうが速いとラリーは言う。さらにOLTPの処理でも比較し、Amazon Auroraに比べOracleのDBaaSは35倍速いと言う。これらのベンチマーク結果は、すべてWeb上で公開しているとラリーは豪語する。
Redshiftがなぜ遅いのか。それは2005年と言うすでにかなり古いPostgreSQLのバージョンからフォーク開発された製品をAWSが買収し手を入れたものだからだとラリーは説明する。さらにOLTP用のAuroraもMySQLのフォークであり、両者ともAWSでしか動かないと指摘する。「Auroraと違いMySQLならどこででも動く。MySQLベースのAuroraは、何らOSSのコミュニティに貢献していない。そのテクノロジーはシングルスレッドのレプリケーションとかで、20年は遅れている。35倍遅くても良いのならAuroraでもいいだろう。でもAuroraはAWSしか動かない」とラリー。AWSはIBMメインフレームよりクローズであり、いったんその世界に入ったらなかなか出られなくなるとも言う。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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