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「プログラミングの能力が僕を救ってくれた」―セゾン情報システムズ 小野和俊さん

 今回登場するのは、セゾン情報システムズの小野和俊さんだ。アプレッソの小野さん、といえば業界で知らぬ人はいないといってもいいくらいだろう。小野さんに、これまでのキャリアを振り返っていただくとともに、意外な価値観などもお聞きしたのでお届けする。

ソフトウェアは欠点を補い、人の能力を拡張してくれるもの

株式会社セゾン情報システムズ 常務取締役 CTO
テクノベーションセンター長 小野 和俊さん

 子どもの頃はゲームが好きだった。とはいえ、ゲームセンターに通うお金もない。ならば、自分で作れればと考え、親にファミコン用BASICプログラミング環境「ファミリーベーシック」をねだる。ところが親は「あれはオモチャみたいなものだからダメ。88なら仕事にも使えるから」と、NECのPC-8800シリーズのパソコンを買ってくれた。

 88で、『マイコンBASICマガジン』(通称「ベーマガ」)に掲載されていたゲームプログラムを「写経」のように打ち込んでゲームを作り始めた。それがIT、プログラミングの世界に入るきっかけだったと語るのは、株式会社セゾン情報システムズ 常務取締役 CTO テクノベーションセンター長の小野和俊さんだ。打ち込んだプログラムの改造なども行い遊んでいたのは、小学校3年から4年生の頃だという。

 プログラミングは小野さんの性格に合っていたようだ。その後もプログラミングは続け、中学時代に英文筆記体を書く「ワープロ」を作った。実は小野さん、あまりにも字が汚く、英語の先生にやり直しをさせられるほどだった。「今でも筆記体で書くと、死んだミミズみたいになっていまいます(笑)」と小野さん。そこで作ったのが、筆記体ワープロだった。自分の欠点をプログラミング能力で補ってみせたのだ。

 その後、陸上部での活動が増えプログラミングからは少し離れた。再びプログラミングの世界に戻ってくるのは大学時代。慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスに通っていた頃だ。

 当時は野村総合研究所で、決められたテーマについて各種データベースやインターネットの情報を調査してレポートをまとめるアルバイトを行っていた。そしてこれらの仕事は自動化できる部分がかなりあると考えた。そこで各種情報をクローリングして集め、分類、整理しレポートにまとめるプログラムを作ったのだ。プログラムを走らせ、小野さんはコーヒーを飲みながらネットサーフィンして結果を待った。

 「さすがにアルバイトの担当者からはちゃんと仕事をしてほしいと言われました。僕は、僕が書いたプログラムが仕事していますから、と答えました(笑)」

  作ったプログラムはさらに洗練され、アナリストごとにレポートをまとめられるようにもなる。そうなってくると、野村総研社内でも話題となり、IT部門でこのシステムを本格的に開発することに。

 「筆記体ワープロもそうですが、自分の欠点を補うため、そして常に楽をするためにプログラミングをしてきました」(小野さん)

 プログラミングの力がだいぶ戻ったこともあり、就職先として目指したのはITの世界だった。

 「当時、シリコンバレーは5年先を進んでいるという話があり、ならばその世界を見てみたい。すぐにシリコンバレーに行かせてくれそうな会社を探しました。それでUNIXベンダーのSun Microsystemsに就職したんです」(小野)

 Sunでは半年間ほどの新人研修が行われた。エディターを作る課題が出され、小野さんが作ったのは「エディターを作るためのエディター」だった。エディターを作るエディターは、それを進化させることで使っている小野さん自体の開発効率が向上するというもの。この開発は社内でも話題になる。そんなことも影響してか、研修後には念願のSun Microsystems本社のあるシリコンバレーでの勤務が始まった。

 米国では苦労もあった。プロジェクトの開始前に上司から内容を説明されたが、英語が得意ではなかったので内容を十分に理解できない。何度も繰り返し質問をしていたら、マネージャから舌打ちされてしまう。このままだと日本に送り返されるかもと不安に。そこでマネージャからの1ヶ月程度で作れればという仕事の指示に対し「3日で絶対に作ってやる」と。さすがに3日は無理だったが、1週間ほどでそれを完成させたのだ。

 「プログラミングってサプライズじゃないですか。人をびっくりさせるところが面白い。1週間でモックじゃなく中身までできていたので、マネージャのダグラスはかなり驚いていました」(小野さん)

 自身のプログラミング能力に助けられた瞬間だった。その後は開発スキルの高さが評価され、ダグラス氏の紹介でカリフォルニア州立大学サクラメント校の大学院生にJavaとXMLのプログラミングデザインを講義する機会もあった。英語が苦手な小野さん、思わず「学生に質問はJavaで」と言ったら、わーっと大きく盛り上がったとか。

 しばらくすると、マネージャのダグラス氏が独立することになる。小野さんは、彼から新しい会社でCTOをやらないかと誘われる。プログラミングのパフォーマンスは人よりかなり高いことに自信を持っていたので、「Sunの仕事とそのCTOの仕事を2足のわらじでやれるならいいよ」と話をしたそうだ。その頃、技術者を探している日本のベンチャー投資家から偶然に声がかかる。時代は渋谷界隈が「ビットバレー」と呼ばれ、ITやビジネスモデル特許で起業が相次いでいた頃だ。

 小野さんは投資家に話を訊いてみたが、当初は「胡散臭そう」だと感じていたという。だが、ある人に会ってみて欲しいと言われ米国で会うことになる。アロンゾ・エリス氏は、シティーバンクのシティーダイレクトの仕組みを作ったようなアーキテクトだった。彼は、当時かなりの勢いのあったNetscape社の重要なポジションも約束されていた。彼との会話が人生を変えることになる。

 エリス氏は、世間的にも高く評価される仕事のポジションが約束されているのに関わらず、彼は小さな会社のCTOの立場を楽しんでいた。そして「リスクをとりたかったんだ。リスクをとるのが楽しいんだ」と語ったそうだ。この話を訊いた瞬間、小野さんは大きな衝撃を受ける。これまでは、シリコンバレーでキャリアアップ、ステップアップして成功することばかりを考えていたが、その考えが一気に覆された。

 「砂漠でオアシスを目指すことに例えると、水も持たずに突き進んでしまい死んでしまうのは『無謀』、十分に水を持っているのにまだ足りないと先に進めないのは『臆病』、水はある程度溜まっているから思い切って進もうというのが『勝負』です。プログラミングはそれなりにやってきたので、今勝負してもいいのではと考えました」(小野さん)

 Sunでもまだ面白い仕事はできそうだった。しかし勝負という道を選ぶことに。まだ24歳の時だった。この決断ができたのも、プログラミングには絶対の自信があったからだろう。小野さんはプログラミングは、弱点を補うものだと語る。

 「手足の延長のようなもので、プログラムを作ることで身体を拡張できます。プログラミングという『友』がいることで、自分の能力が拡張する。そういう使い方が好きです」(小野さん)

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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