サービス刷新の背景
この刷新の背景について、三菱総研DCS株式会社 技術企画統括部 クラウド事業推進グループの永井満氏は「国内IT市場における従来型SI市場は縮小傾向にあるとされ、大きな成長が見込めるとは言えません。その一方で拡大しているのがクラウド型SI市場なのです」と語る。
DCSクラウド(第一世代)は、サービスメニューや価格面で競争力が低下し、SI案件の多くをオンプレ基盤ベースの従来型SIで提案していた。そのためクラウド型SIへシフトする必要性について社内で議論されていたという。
更改の検討を開始した2015年当時は、国内におけるクラウドの台頭から5年が経ち、多くのサービス事業者が基盤の刷新や大幅な機能強化を図り、競争が激化していた。三菱総研DCSとしても、クラウドサービスを持つのであれば、競争力を保つために同様の機能強化が必要と考えていた。
「当社としてもクラウド型SIへの取り組みはしていましたが、より一層の注力が必要と考えていました。また、データセンターを保有するSIerとして、新たな武器が必要との想いもありました。この二点がポイントとなり、自社でクラウドサービスを持つという選択に至りました」と永井氏は語る。
新しいクラウドサービスをマネージドクラウドとすることで、AWS等のセルフサービス型のクラウドサービスとはサービスレベル面で差別化を図り、他マネージドクラウド事業者とは価格面で差別化を図るという戦略をとることにした。
第一世代の課題
DCSクラウド(第一世代)が抱えていた課題について永井氏は、以下の三点を挙げた。
- 価格競争力不足
- 限定的なサービスメニュー
- 高負荷な運用保守
最初の課題「価格競争力不足」を招いた主因は、三菱総研DCSの主要顧客が金融機関であるがゆえに「リソース保証前提の価格設定」とならざるを得ないことだった。HW/SWの集約率が低いことからHW/SWの原価がそのままコストとなり、さらに多くの運用作業が手作業で残っていたことから運用コストが圧縮できなかった。結果として競合他社と比較した場合に価格差が出てしまい、競争力不足につながっていた。
その対策のポイントとして永井氏たちが考えたのが「集約率向上」と「運用コスト削減」である。
集約率向上に対しては「ベストエフォートにすることでHW/SWの原価を低減」し、同時に「専有タイプのメニューを追加してリソース保証のニーズにも対応」した。運用コスト削減については、「運用作業の自動化を進めることにより、競争力のある価格の実現を目指すことにしました」(永井氏)。
二番目の課題として永井氏は「限定的なサービスメニュー」を挙げた。サービスメニューが少なく、災害対策やハイブリッド構成での利用など新たなニーズに柔軟に対応できていなかった。
対策のポイントは「メニュー強化」であり、多様なニーズに応えながら、同時に金融機関系の案件が求める各種認証にも対応した品質、セキュリティを提供することとした。
三番目の課題「高負荷な運用保守」の要因の一つは、多様なニーズに応えてきたSI実績を生かして、マルチベンダー構成としたことだった。その結果、コミュニケーションパスが増えたことから障害時の調査や対応が長期化する傾向にあった。またバージョンアップや基盤拡張などのシーンでは、同様に事前調査や検証などの負荷が高かった。
「そこでシングルベンダーにして問題解決のスピードを向上し、かつ組み合わせが保証されたソリューションを使うことで運用保守のコストを削減することにしました」(永井氏)。
インフラを自分たちで作るか、外部に任せるか?
新たなクラウドサービス「FINEQloud」を構築するにあたり、大きな決断を求められたのが「インフラを自分たちで作るか外部に任せるか」であった。
その判断ポイントとして永井氏は「構築人件費の削減とサービス検討への注力」、「保守期限切れへの対応の期限厳守」を挙げた。足元の作業の省力化、かつ短期間での構築を実現したかったのだ。さらに、「保守効率化のためのワンストップサポート」を受けられる点も大きなポイントだった。こうした社内での慎重な検討を経て、採用に踏み切ったのがDell EMC社のEHC(Enterprise Hybrid Cloud)ソリューションである。
「クラウドに必要な技術要素はもちろん、導入、運用コストだけでなく、事業の伸びに対してどれだけ投資が必要になるか。拡張費用も踏まえて複数の製品を評価し、EHCを選択しました」(永井氏)。
EHCとは、「VxBlock」システムを中心に自動化やクラウド管理、アドオンモジュールなど、多様な製品を組み合わせて提供されているものだ。
三菱総研DCSのEHC評価ポイントは、以下の三つだという。
- 運用自動化
- 多様な製品群
- 充実したサポート
最初の「運用自動化」では、社内のワークフローシステムからオーケストレーターのAPIを呼び出し、エンド・ツー・エンドでVM環境の払い出しを自動化した。「当社のワークフローシステムとオーケストレーターとの連携部分の作り込みに注力したいと考えていました。そのため、オーケストレーターによる自動化処理部分は可能な限り構築を省力化し、短期化したいと考えました。その観点で有効と評価したのが、サービスカタログテンプレートなどです」(永井氏)。
次の「多様な製品群」では、メニューの特性に合わせてハードウェアを選定した。「ネットワーク仮想化、ScaleOut NAS、セキュリティ、BCPなどの部分も含め、トータルで組み合わせを保証できるEHCが、他社製品と比較して優位性が高いと評価しています」(永井氏)。
三つ目の「充実したサポート」では、「ハードウェアだけでなくオーケストレーターやアドオンモジュールも含めたワンストップサポートやベンダーからの定期的な情報提供による保守負荷の軽減を期待できる」と評価した。
「プロアクティブな情報連携と問題解決」として、永井氏は「セキュリティアップデート情報やバグFIX情報、技術アップデートなどの情報提供は、保守効率化を図る上で有効となります。こういった情報についてEHCのサービス アカウントマネージャーからDCSの保守担当者に対して月次でフィードバックがあります。こういったサポートのきめの細かさも評価のポイントとなっているのです」と語る。
EHCを採用して、そしてDell EMC社と組んで良かったこと
続いて永井氏は、三菱総研DCSが、新クラウドサービスFINEQloudにEHCを採用して、良かったと思っている点について語った。
まずメリットの一つが「リファレンスアーキテクチャー化されたテスト済み構成であること」だった。多数の構成プロダクトのすべてが、ベストプラクティスに沿って設計、実装されているので、自社内構築事例と比較しても格段に期間短縮・省力化できた。「管理用のVM総数が43台あったのですが、すべてをワンセットで、約4ヶ月で実装しました。従来のやり方では倍の期間がかかりますので、省力化、省コスト化を実感しています。採用して良かったと思いました」(永井氏)。
次に永井氏は生産拠点で構築された後、搬入される点をメリットとして挙げた。Dell EMC社の生産拠点で基盤構築作業の大半を実施した上で納品されるため、現地での作業を最小限に抑えられ、ベンダーの作業立会いにかかるコストを極小化できた。
発注・パラメーターシート提示から約2週間で全サーバーがラッキングされ、かつ指定のパラメーターを設定された状態で空輸、データセンターまで直送され設置に入る。設置終了後、Dell EMC社のエンジニアが合流して設定内容のチェック、最終微調整などを経た上で、コンバージドインフラストラクチャの核である「VxBlock」が組み込まれた。その後は構築、テスト、自動化開発を行い、予定される工程が全て完了した段階でEHCとして検収依頼するという流れになる。
「VxBlockの搬入から3週間、ナレッジトランスファー(知識移転)を含めて4週間で終わりました。従来の手法ではこれだけの規模の構築、開発、テストを実施しようとすると3ヶ月程度はかかると思われます。それが1ヶ月強で済むのは大きなメリットです」(永井氏)。
さらにDell EMC社のサービスアカウントマネージャーが、テストフェーズから専任の担当者として参画し、FINEQloudの背景や環境を理解しているため、サービスイン後のコミュニケーションがスムーズだった点もメリットとして大きいという。
永井氏は最後に「おかげさまで今回の案件では、期限とコストを守ることができました。EHCを採用して良かったと考えています。今後、様々なビジネス領域を攻めていく上で、基盤の継続的な進化は重要です。DELL EMC社と今後も良好な環境を築き、お互いのビジネスを拡大していけるよう、尽力したいと考えています」と語り、講演を終了した。