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週刊DBオンライン 谷川耕一

サッカー・ワールドカップ優勝の影にSAPあり


 7月14日、ドイツの優勝で幕を閉じたサッカーワールドカップ・ブラジル大会。ワールドカップで寝不足と戦い熱く盛り上がった人たちも、2週間も経ったのでさすがに興奮も一段落、冷静に振り返ることができるだろう。IT的な振り返りとして憶えておきたいのが、24年振りのドイツ優勝には本社を同国に置くエンタープライズIT企業SAPが貢献していたことだ。

データでチームが強くなる

馬場渉氏
馬場渉氏

 2006年に自国開催のワールドカップで3位に甘んじたドイツ。その時点から強いドイツを取り戻すために打ち立てたのが、「ポゼッションサッカーでボール保持率を高める」というチーム戦術だった。代表チームは今回優勝するまでの8年間、この戦術を徹底してきたそうだ。

 このドイツのポゼッションサッカーをマネージメントするのに使われたのが、SAP HANAの上に構築された「SAP Match Insights」という仕組みだ。2006年当初にはHANAはまだ存在しなかったので、HANA化されたのはここ最近のことだろう。

 ドイツでは試合中のボール保持率を高めるために、1人の選手がドリブルなどで長い時間ボールを保持するのではなく、味方同士でパスを繋ぎ続けるという方策をとった。つまりは個人の1回あたりのボール保持時間を最小化し、結果としてチームのボール保持率を上げるという戦略だ。「そのためには、常にパスコースが2つあるように周りの選手があらかじめ動かなければなりません。それを実現するのに選手の動きのデータを細かくとって分析しています」と言うのは、SAPジャパン バイスプレジデント Chief Innovation Officerの馬場 渉氏だ。

 試合を行うスタジアムの上部に取り付けられたトラッキングカメラで、出場している選手を追いかけ続けることでデータは収集される。練習の場合はボールや脛当てにセンサーを入れデータを取得することもある。トラッキングカメラで追いかけると「選手の動きが物理的かつ数学的に明らかになる」そうで、得られるデータは過去のものも含めHANAを使って分析する。

 このトラッキングカメラを使ったデータ収集で、データ量は圧倒的に増えた。かつては1試合あたり2,000件程度だったものがトラッキングカメラでは4,000万件にも及ぶのだ。データの組み合わせパターンとなれば、数兆件にも及ぶ。このビッグデータを活用することで「経験と勘のコーチングではなくファクトによるコーチングができるようになります」と馬場氏。このファクトによる指導、トレーニングの結果、代表チームの個人のボール保持時間平均は2006年時点で2.8秒だったものがいまでは1.1秒に短縮されたそうだ。

SAP Match Insightsの画面
SAP Match Insightsの画面

 このドイツチームが利用した仕組みと同様なものを、SAPジャパンはデータスタジアム社と協業し日本でも展開する。これは日本のチームを強くするためにも使われるし、ファンの人たちがよりサッカーを楽しむためにも利用されることになる。

スポーツの世界はいまやITなしに成り立たない

 SAPではスポーツ&エンターテインメント産業を25番目の業種として注力すると表明している。データスタジアムとの協業もそんな動きの1つだ。スポーツでITを活用する場合には、前述のようにデータを使ってチームを強くするというのがまず挙げられる。ラグビー日本代表でも、選手がGPSセンサーを付けて練習、試合を行い、さまざまなデータを取得し選手のスキルアップや怪我の防止、選手起用やチーム戦術に役立てていることは以前のDB Onlineの記事でも紹介した。ほかにもバレーボールやフェンシングなどで、強くなるため、試合で勝つためにデータを活用していることは有名だ。

 もう1つのスポーツとITの関わりが、ワールドカップや五輪など大規模なスポーツイベントをスムースに運用するためにITを活用するもの。チケットの販売、発券にITはなくてはならないものだ。大勢の人が会場などに一気に集中することになるので、安全かつスムースに人々を誘導するとことなどにもITは使われるだろう。試合を実況したり、試合に関するデータをリアルタイムに管理したりするには、安全で大容量のネットワークもいる。いまや、ITなしに大規模なスポーツ大会の運営は成り立たないのだ。

 そのほか、スポーツとITの関わりとして、チームのビジネスをサポートするものが挙げられる。プロのスポーツであれば、チームは収入を十分に得て選手に報酬を払えなければ成り立たない。そのためにどうやってファンを増やしていけば良いのか。たとえば米国プロバスケットのNBAあるチームでは、ファンクラブ会員向けに自分の好きな選手のシュートシーン映像を見られるようにするなど、パーソナライズ化された情報提供を開始しているところがある。これは、ここ最近流行のマーケティングオートメーションの応用でもあり、スポーツチームのデジタルマーケティングの事例はよく目にするところだ。実際こういった取り組みをすることで、ファンの定着化が進みシーズンチケット購入のリピート率が向上した例もある。

 今後、より一層「スポーツとITの連携」は加速するだろう。さらに馬場氏も言っていたが、ビジネスの話をスポーツに例える経営者は数多くいる。そういったたとえ話が人々に理解されやすいのもあるし、実際にスポーツの世界で実践したデータ分析や意思決定の考え方はビジネスに応用できるものも多い。ビジネスの世界で実績を上げてきたITをスポーツで活用する、逆にスポーツで勝つことができたシナリオをビジネスに応用する。こういった動きも今後は、さらに活発化してくるだろう。

 今後、強いチームがITやデータを活用するのは、どんどん当たり前の世界になりそうだ。そういったチームはチームそのものの運用にもどんどんITを活用するようになるだろう。とはいえ、ITを駆使してデータを活用したチームが必ず勝利できるわけではないのがスポーツの世界。なぜなら今回のアルゼンチンとドイツの決勝戦は、延長の末の1点差ゲーム。ほんの些細なことで、勝利の女神はアルゼンチンに微笑みかけたかもしれないのだ。スポーツにはこういうところがないと面白くない。

 2019年には日本でラグビー・ワールドカップが開催される。もちろん翌2020年には東京五輪だ。「東京五輪はSAPジャパンとしても1つの視野に入っています。資金力のあるプロチームに固執することなく、選手育成などにも貢献していきたい。実際の現場で本当に求められるものを素早く作って、すぐに使ってもらうことが必要です」と馬場氏は言う。

 EnterpriseZineではスポーツの世界で活用されているITをこれからも積極的に取りあげる。そうすることで、これら2つの一大スポーツイベントの成功を影ながら応援したいと思っているのだ。そんな事例などがあれば、是非編集部宛に情報を。

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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