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コグニティブは人間の仕事を奪わない、むしろ考えることを促すもの―米IBMのLemnios氏に訊いた

  2015/03/05 06:00

 IBMが今、強力に推し進めているのがコグニティブ・コンピューティングだ。ハードウェアやソフトウェア、さらにクラウドなどIBMが提供する各種製品やソリューションの最大の価値がこのコグニティブの世界であり、むしろこのコグニティブ・コンピューティングの価値を提供するために強力なハードウェアがあり、さまざまなソフトウェア群があり、クラウドなどのサービスがあると言ってもいいのかもしれない。そんなIBMのコグニティブ・コンピューティングの今後の方向性と他社のAIソリューションなどとの違い、またコグニティブの技術が進むと未来の世の中はどう変わっていくかなどについて、米IBM リサーチ・ストラテジー & ワールドワイド・オペレーションのバイスプレジデント Zachary J. Lemnios氏に話を訊いた。

旧来のAIとの違いはスケールとインパクト

 米国IBM リサーチ・ストラテジー & ワールドワイド・オペレーションのバイスプレジデント Zachary J. Lemnios氏
米IBM リサーチ・ストラテジー & ワールドワイド・オペレーション
バイスプレジデント Zachary J. Lemnios氏

Q:IBMはWatsonが登場してコグニティブ・コンピューティングを強力に打ち出していますが、これを今のタイミングで推し進めることになったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

Lemnios:思い当たることは2つあります。1つは数年前に行ったクイズ番組「ジョパディ!」でのデモンストレーションです。人間のレベルで人間のペースでクイズに答えることができる。この技術を実現できたことがはじまりのきっかけです。2つめは、今、データが膨大に増えているという状況にあることです。その膨大なデータを活用できるようになった。膨大なデータを理解することで、コグニティブの世界が実現できるようになったのです。これにより、あたかもコンピュータと人が対話しているかのようになります。これは極めてユニークなことです。

 大量なデータを扱えるようになると言うとビッグデータ・アナリティクスを思い浮かべるかもしれませんが、これはコグニティブ・エンタープライズの一部だとIBMでは考えています。コグニティブ・コンピューティングは、個人であれ大企業であれ自然言語で誰でも使えるものです。ビッグデータやアナリティクスの世界よりも規模の大きなものなのです。

Q:1980年代後半から1990年代の初め頃にAIのブームがありました。当時のAIと今のコグニティブ・コンピューティングでは何が違うのでしょうか。

Lemnios:一番の違いは、スケールとインパクトです。当時もIBMの研究所ではデータからシステムがそれに理由付けをできるというところは実施していました。それが今のコグニティブ・コンピューティングの技術的なバックグラウンドにはなっています。それを発展させて人が会話するような世界を実現してみせたのが「ジョパディ!」です。それと、当時のAIはシーケンシャルな処理でした。コグニティブは、人とデータのやり取りがあり、そこから価値が生まれます。

 それから、ハードウェアの進化もコグニティブには貢献しています。学習で膨大な情報を教え込むのに、CPUやストレージのハードウェアの進化は欠かせません。すべてのレベルでIT業界に変革があったことが、コグニティブ・コンピューティングが実現できた理由です。またIBMとしては、脳のようなコンピュータがあるのもユニークなところかもしれません。

人にはできないことをコグニティブ・コンピューティングがサポートする

Q:速い、規模が大きいというのは、他社の製品やサービスと比較しやすいのですが、コグニティブ・コンピューティングのような世界の価値は、その良さを比較するのが難しいと思います。選択する際には、どのようなところに注目すればいいのでしょうか。

Lemnios:複雑で曖昧なものの中から人が理解するように答えを導き出す、それがコグニティブです。たとえばこの世界を実現するために、IBMには病院などの現場にも研究者がいて、必要な膨大な知識をコグニティブに取り込んでいます。患者の症状は極めて曖昧なものです。症状と資料を見比べて、医師は判断することになる。そのためには対話型の情報を提供する必要があります。現在の医療の現場には、人間が把握できない膨大な量の情報があります。1人の医師であれば、1年あたりに理解できる論文は数十程度でしょう。対して、毎月2万を越える論文や技術情報が新たに生まれているのです。それを人間では把握できません。そこにコグニティブのシステムがあるのです。症状に関連する論文のうち最近のものをフィルタリングし、洞察して患者に対してポテンシャルの高いものを提供できる。さらに患者のことも医師のことも学ぶことで、患者個人に合わせた治療の方針を示すことができる。これが実現できることこそが、IBMのコグニティブ・コンピューティングの価値です。

 これはパーソナライズ化した教育といった世界でも利用できます。勉強する生徒の能力をコグニティブのシステムが理解して、その生徒にパーソナライズ化した学習プログラムを提示します。個人ごとに能力を細かく見ることができ、生徒に最適化された教材を最適なタイミングで提供することができます。これはきちんとした先生がいてきちんとした親がいるのと同じことです。コグニティブなシステムであれば、このパーソナライズ化教育のシステムをさまざまな国や地域にも提供できます。それにより、教育の大きな変革も可能になるでしょう。

Q:以前はIBMの基礎研究所とビジネスの世界は離れていたイメージがあります。それがWatsonが登場した頃から、両者の関係がぐっと近づいた感じがするのですが。

Lemnios:研究所とビジネスの世界のギャップは小さくなければならないと考えています。研究所はIBMという会社の「光」でもあります。未来を照らすもので、新たなテクノロジーのフロンティアを築くのが研究所です。その成果を市場に持って行く。IBMには素晴らしい研究者がたくさんいます。日本の豊洲にも川崎にも大勢います。新しいアイデアをなるべく早く見せられるように、今は研究所のアイデアをビジネス現場の人たちと共有する取り組みも行っています。それにより、新しい技術で顧客と連携する。これはIBMにとっては新しい取り組みです。コグニティブだけでなく、その他の先端技術でも同じようなことができるようになっています。

Q:コンピュータが人間から単純作業をなくしたように、コグニティブ・コンピューティングの技術が普及すると人間から考える仕事奪ってしまう心配はありませんか。

Lemnios:まったく逆で、心配ありません。コグニティブ・コンピューティングは、人から考えるということを奪うものではないのです。むしろ人が考えることを強化するものです。教育の例でもそうですが、正しいタイミングで正しい教材を与えることができるようになればどうなるでしょう。生徒はよりものを考えるようになるはずです。また医師はコグニティブから情報を提供してもらうことで、より的確な診断ができるようになります。

 IBMではコグニティブと人間は共生的な関係を作ると考えています。コンピュータが人に置き換わるわけではありません。コンピュータではできないことがたくさんあります。そしてまたその逆もある。IBMの研究所のチャレンジはそれを1つにすることです。その最初の取り組みを、皆さんは今目の当たりにしているのです。

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著者プロフィール

  • 谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

    EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーター かつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジ...

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