ガートナージャパン(以下、Gartner)は、生成AIへの過度な依存は顧客離れを引き起こすとの見解を発表した。
2027年までに、生成AIに頼った顧客対応を続ける企業の80%は、その効果を発揮できないだけでなく顧客離れを引き起こす
生成AIの登場によって、人とコンピュータとのインタラクションがより革新的な進化をもたらすとみられており、すべてのデジタル関連の取り組みに対する期待が膨らんでいるという。
しかし、生成AIは、アウトプット(応答)の信頼性など、手放しで利用するには乗り越えるべきチャレンジが多く、未成熟な状況にあるという。また、そのアウトプットの確からしさや倫理性も含め、生成AIの信頼性に関しては、第三者の視点で評価する必要があるとしている。
同社のバイス プレジデント アナリスト 池田武史氏は、次のように述べている。
「今後、生成AIを顧客対応のツールとして採用を試みる企業は確実に増えていきます。しかし、人間による対応とは異なり、生成AIは相手の機嫌や感情を適切に感じ取って態度を変えるような機能まではまだ十分に備えていません。単にテクノロジに頼った提供をすることで、顧客の不信や不満を増大させていないか慎重な提供が推奨されます。企業が顧客向けのインタラクションのサービスを提供する際には、人間が直接対応しているのか、それとも生成AIによる対応なのかを明示して、ユーザーの期待値をコントロールすることが重要です。このことが、ユーザーやパートナー含めステークホルダーが同テクノロジを受け入れるか否かの重要な分かれ目となります。
それに加えて、今後は、顧客が人以外になることも想定すべき世界になりつつあることにも注目すべきです。Gartnerでは、これをマシン・カスタマー※と呼んでいます。これは、あらかじめ想定された範囲での製品/サービス調達のように、理路整然とした交渉を行いやすい取引に関しては、システム同士が直接交渉し売買を行うという仕組みです」
※マシン・カスタマー:マシン/コンピュータ同士が商取引を行う新しい概念
2027年までに、目的が明確でないままイノベーション推進としてテクノロジの導入を進める企業や組織の80%は、何の成果も得られず取り組みの中止に追い込まれる
生成AIをはじめとしたデジタル・シフトには、ゲーム・チェンジを前提とする大きな変革へのチャレンジも含まれるという。これは、自社のビジネスプロセスの改善にとどまらず、業界全体や公共サービスまで含めたエコシステムの変革を必要とするため、顧客やパートナーも巻き込む戦略的なアプローチが不可欠になるとしている。たとえば、スマート・シティやスマート・マニュファクチャリングといった大きなテーマの実現には、テクノロジの導入だけでなく、制度やルールの変更や新たな業界エコシステムの構築など、自社や自組織の利益を超えた取り組みが求められることから、チャレンジが継続しない、テクノロジがなかなか浸透しないといった例が多くみられると同社は述べている。
池田氏は次のように述べている。
「ゲーム・チェンジを前提とするビジネスの変革は、単なるテクノロジの評価・導入だけでなく、社内の関係部門との間で生じる軋轢の調整や、顧客およびパートナーを含むエコシステムの刷新を伴う、一大新規事業レベルの取り組みです。そのため、短期的な収益拡大を目指す取り組みとは異なり、顧客やパートナーの未来への期待までをも内包したグランド・デザインを提示できるかどうかがイノベーション推進を加速する重要な要因の1つとなります。こうしたチャレンジには、明確な目的とビジョンが必要です」
ビジネスモデルの変革を伴うイノベーションでは、推進体制を確立し、経営陣の直属として活動することが推奨されるが、Gartnerが2023年に実施した調査では、イノベーション推進に取り組む企業の半数以上が、推進部門と事業部門との間で既に軋轢が生じている、あるいは今後そうなると回答しているという。
池田氏は次のように述べている。
「デジタルのゲーム・チェンジは、一企業の思惑や指向で実現できるようなものではありません。企業は、ゲーム・チェンジを伴うデジタルへの取り組みを自社の第二創業と位置付け、従来の事業とは異なる布陣で、対象となる領域のさまざまな専門家、官公庁や関連機関とも連携して、新たなエコシステムを築く戦略を取ることが重要です。ゲーム・チェンジを前提とするビジネスの変革には、経営陣による自社の未来に向けた覚悟が求められます」