2日にガートナー ジャパンのリサーチ部門が発表した「国内企業のIT投資動向」に関する最新の調査結果によれば、2011年度のIT投資は2010年度に比べて1.0%程度増加する見込みであることがわかった。既存システムの維持費を減らし、新規投資を増加、再開させるという回答が増えており、一昨年からほぼ横ばいとなった2010年度と比較して、積極的な姿勢に転じる企業が増えているようだ。
各企業の関心分野を探る「2010年度と2011年度の新規・追加投資の主要分野」の調査では、特に従業員数2,000人以上の大企業において、サーバ仮想化やモバイル環境の整備、アプリケーションへの投資再開傾向が明らかになった。また、IFRS (会計基準の国際標準化) 対応や運用管理ソフトウェアへの投資意欲も高まっているという。
サーバ仮想化ニーズに牽引される運用管理ソフトウェア
「サーバ仮想化」を関心分野として選択する企業は2008年から2010年で「11%→17%→19%」と順調に増加。特に、従業員数2,000人以上の大企業では2008年の29%から43%と顕著な伸びを見せた。導入済み企業の割合も、従業員数500~1,999人規模の企業で4割超、従業員数2,000人以上の大企業では7割弱となっている。ただし、企業の全サーバに占める仮想環境の比率は低くく、インフラ・コスト削減ソリューションとして今後もニーズは拡大していくとしている。
また、サーバ仮想の浸透とともに運用管理の複雑化という課題が浮上しており、物理環境と仮想環境が混在したインフラを管理するための「運用管理ソフトウェア」のニーズが大企業で再び高まってきているという。
モバイル環境整備へのニーズが急拡大
一方、昨年までは全体の5~6%に留まっていた「モバイル環境整備」への関心は、2010年調査では約2倍の10%にまで拡大している。特に従業員数2,000人以上の大企業では、2009年の7%から18%に跳ね上がった。モバイル環境の整備が進むことによって、端末だけでなくセキュリティ管理やアプリケーションのニーズが拡大するほか、データ通信量増大などの影響もありそうだ。
大企業を中心にアプリケーションへの投資を再開
2008年のリーマン・ショック以降、多くのユーザー企業が投資を抑制あるいは延期してきた「アプリケーション」への投資も再開しつつあるようだ。とりわけ再開傾向が強いのは従業員数2,000人以上の大企業。「パッケージ・アプリケーション」は2009年の19%から28%に、「アプリケーション開発の外部委託」は同14%から22%にニーズが拡大している。また、「IFRS対応」も2009年の9%から25%へと大きく伸びており、財務・会計管理アプリケーションの改修や、ERPの導入およびアップグレードに結び付く可能性があると指摘している。
「向こう3年間に重点投資すべきアプリケーション」について尋ねた調査では、従業員数2,000人以上の大企業において、「財務・会計管理」「購買・調達管理」「営業支援・SFA (セールスフォース・オートメーション)」「マーケティング支援」「ビジネス・インテリジェンス (BI)」「SCM」といった分野の投資意欲が高まっていることがわかった。
関心はきわめて高いものの実需には結びついていないクラウド・サービス
一方で、「クラウド・サービス」については、関心はきわめて高いものの、実需には結びついていないようだ。レポートでは、「費用対効果やセキュリティといった多くの懸念事項を払拭しない限り、近い将来に市場に大きな影響をもたらすほどの需要は出てこない」「クラウド・サービスが日本の市場でIT支出額に比較的大きく影響し始めるのは2014年以降とみており、インフラ取得やシステム運用の支出に対しては市場を縮小させる方向に働き、インテグレーション・ビジネスにおいてはクラウド環境の増加によって一時的に拡大する可能性がある」とまとめている。
Windows 7への移行が本格化
2010年調査時点では、アンケート回答企業のクライアントPC総台数に占める搭載比率がわずか1%と試用段階にあることが明らかになったWindows 7。しかし、調査時点から1年後の計画では同比率は11%になるという結果が出ており、さらに65%の企業が2012年12月までにWindows 7への移行を予定していると回答している。企業におけるWindows 7への移行は2011年から徐々に本格化していくとしている。
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ガートナー ジャパンのリサーチ部門でIT投資動向を担当するリサーチ ディレクターの片山博之氏は「2011年度は景気のボトムから脱し、ベンダーもユーザー企業も景気回復に向けた新たな戦略が必要になる時期となります。ユーザー企業は、2011年度をIT投資戦略の転換期と考え、コスト削減のみでなく成長戦略も視野に入れることが必要です。一方、ベンダーはこういった動向に対応すべく、ユーザー企業のIT戦略とビジネス戦略の両方を把握した提案を行うことがいっそう重要になります」と結論付けている。