ITリーダーの重要性が高まる中、彼らのミッション・クリティカルな優先事項への対応が遅いと感じられる場合も少なくない。ITリーダーの官僚的な姿勢がデジタル・プロジェクト推進の障害となり、プロジェクトから外すことこそ最善の策であると受け取られる場合もある。
ガートナーのリサーチ バイス プレジデント、クラウディオ・ダ・ロルド氏は「2019年末までに、企業はビジネスのイノベーションのために1ドル投資するごとに、それを支えるITに7ドルの追加投資が必要になります。SVMを担当するITリーダーは、この支出を管理する必要があります。この職務を適切に行うために、ITリーダーは急速なイノベーションに積極的に関与しなければなりません。低コストのクラウド・サービスとインテリジェントなオートメーションの利用を主導し、デジタル時代に見合った新しい選択肢をソーシング戦略に含め、これからのデジタル・エコシステムの管理にコミットする必要があります」と述べている。
ITリーダーは、自社のデジタル・ビジネスを促進するために、自らの役割を全うしなければならない。そのためには、以下の4つの課題に対処する必要があるという。
1. デジタル・ビジネスとバイモーダルITの実現
従来のIT組織とそのプラクティスは、バイモーダルITのモード2の側面に苦労することが多く、ビジネス上、最も優先すべき事項への対応が遅れることが珍しくない。関係者からは、プロセスに関する柔軟性の欠如、新しいテクノロジ領域におけるコンピテンシの低さ、SVMの活動とビジネス上の優先項目を戦略的に一致させることができない官僚的なアプローチ、などに対する非難が集まっている。
ダ・ロルド氏は、次のように述べている。「SVMを担当するITリーダーは、自らの組織に、切迫性と柔軟性の感覚を持ち込まなければなりません」。 ITリーダーは、急速なイノベーションをサポートするために、最適なソーシングのモデル、スタイル、またプロバイダーの選定を俊敏に計画すべきだ。そのためには、チーム内で革新的なソーシングを実行する人材(モード2イニシアティブに最適な人材)を明確にしなければならない。このような人材を社外から採用する必要が生じる場合もある。
2. テクノロジ調達の効率向上と範囲拡大
IT部門以外のビジネス部門からのテクノロジへの支出が急速に増加している。プロジェクトの効率的な遂行のためにSVMチームは、より早い段階で各ビジネス部門内のイノベーターの深い関与を確保し、ビジネス・バリューを提供することを求められている。
ダ・ロルド氏は、次のように述べています。「時代遅れの文化と組織構造は、IT部門が本来、最も必要とするはずのビジネス部門からの信頼を損ないます。古い方法、構造、ルール、プロセスを刷新して、社内全体の利害関係者とのコミュニケーションとコラボレーションを図る新たな方法を促進しなければなりません。ITリーダーはビジネス部門と協業して、主要なイノベーション・プロジェクトを明確にするとともに、障害を排除する必要があります。ITリーダーは、これまでの経験を生かし、ITの調達組織を変革する計画に着手すべきです」
3. コスト最適化の徹底
ITコストがビジネス・コスト全体に占める割合は平均で4.3%と大きくはない。IT以外の部門では、コスト最適化の機会がよくある一方、多くのCIOはコスト最適化に必要な文化的、政治的障壁を乗り越えることに前向きではない。しかし、混乱期や経済的圧力の下では、急進的な変革に対するビジネス・リーダーの意欲は高まる。
ITリーダーもこの流れに乗るべきだ。ITリーダーは、ビジネス・プロセスの合理化と標準化が可能なソーシングの機会を特定し、組織のテクノロジへの支出を最適化する必要がある。デジタル・ビジネスの変革や競争上の差別化、コアITの刷新といった分野のビジネス・バリューを促進するために、資金を注入できるようにしなければならない。
4. 複雑なベンダー・エコシステムの管理
デジタル・ビジネスの進展に伴い、企業・組織はベンダーに対し、これまで以上に革新的なソリューションを求めるようになっている。ベンダーとの関係を適切に管理できなければ、パフォーマンスやセキュリティ上の深刻なリスクにさらされる危険が増す。
ダ・ロルド氏は、「ITベンダー管理チームは、バックオフィスの管理業務から抜け出して、戦略達成のために、表立った役割を果たす必要があります。ベンダーをそれぞれの戦略的価値とリスクに基づいてカテゴリ化するとともに、既存のベンダーとベンダー候補の両方にコンプライアンスに対する期待事項を伝える必要があります。さらに、自社との協力関係とコラボレーションがベンダーにもたらすはっきりとしたインセンティブを創出することも必要です。ツールとアナリティクスを利用してベンダーのコンプライアンス、コラボレーション、プロジェクト実行におけるパフォーマンスを測定しなければなりません」と述べている。
この内容について、ガートナー ジャパン リサーチ ディレクターの海老名剛氏は、「これまでのIT人材の役割やIT組織の在り方に国内外の違いはあるものの、デジタル・ビジネスの実現に向けて、モード1とモード2の両方の活動でのリーダーシップが、ITリーダーに求められる点は共通しています。4つの課題を念頭に置きながら、人材・組織、IT投資管理、ソリューション・テクノロジの影響、ITベンダーの活用/管理のすべてについて、改めて課題を認識し、将来像を描き直して、新たな第一歩を踏み出さなければなりません」 と述べている。
ガートナーでは、2017年6月5~6日「ガートナー ソーシング&戦略的ベンダー・リレーションシップ サミット 2017」を開催する。サミットでは、ガートナーの国内外のアナリストが、ソーシング戦略やIT投資・IT組織マネジメント戦略などについて、さまざまな知見を提供するという。