多くの産業でビジネスの有り様を変える
オラクルが、いよいよ本格的なAI戦略の実現に向けて動き出した。ちょうど1年前の2017年7月、オラクルCEO のマーク・ハード氏は、CNBCのインタビューに答えて、「今後 Oracle Database のクラウドアプリケーションにAI (人工知能)の機能を追加していく」と語った。それも個別のAIアプリケーションではなく、「Oracle Cloud」のアプリケーションやプラットフォーム、インフラストラクチャなど、サービスのすべてにわたってAI機能を組み込んでいくという。これは同社のAI戦略の主眼が、より包括的で中長期的展望に立ったITインフラ環境の創出にあることを示しているといえよう。
その言葉を証明するように、オラクルでは自律型プラットフォームサービスである「Oracle Autonomous Data Warehouse Cloud」や「Oracle Analytics Cloud」「Oracle Integration Cloud」「Oracle Visual Builder」などの新しいプラットフォームを次々に発表し、AI領域におけるビジョンを着実に具現化してきた。
加えて、日本オラクル株式会社 クラウドプラットフォーム戦略統括 大橋雅人氏が注目しているのが、IoTとブロックチェーンである。AI、IoT、ブロックチェーンの3つが融合して生み出す次世代のソリューションは、多くの産業でビジネスの有り様を変える力を持ちうるからだ。
誰もがプログラミングレスで簡単にIoTを利用できる環境を提供する
今、さまざまな分野でIoTの活用が進んでいる。中でもオラクルが注目しているのは、生産分野における現場データの収集・分析・活用だ。ここでカギになるのが、2018年の6月からスタートした「コネクテッド・インダストリーズ税制」である。
この税制は「IoT・ビッグデータ・AI活用による生産性向上」のためのデータ活用に取り組む企業に、特別償却30%または税制控除3%(賃上げを伴う場合は5%)が適用されるというもの。IoT・ビッグデータ投資を検討中の企業には、まさに絶好のチャンスだ。大橋氏はさらに、この優遇税制のもう一つのメリットとして、IoTへの取り組みの具体的なきっかけ作りとなる点があるが、それは「『IoTには関心があるが、具体的に何をしたらよいのか?』と迷う企業が、この税制を意識することで『生産性』をテーマに選べるから」(大橋氏)だ。
オラクルでは、企業がインダストリアルIoTを導入からできるだけ短期間に成果が出るよう(そうしないと後に続かない!)、IoT Cloud EnterpriseプラットフォームをOracle Cloud Infrastructure上に展開。さらにそのプラットフォーム上にOracle IoT Applicationsと呼ばれる多彩なツール群を提供している。これらを活用することにより、ユーザーは製造現場の設備稼働状況や作業進捗などのIoTデータを収集・分析し、画面で確認することが可能だ。また、こうしたUIや判断のためのKPI指標などもオラクルがあらかじめ定義して、誰でも簡単に利用できるパッケージとしてユーザーに提供している。
IoTデータの収集では、現場の機器類からのデータ取得をどう行うかが重要ポイントになる。オラクルでは、FA領域のIoT化に向けた業界横断の取り組みを推進している「一般社団法人Edgecrossコンソーシアム」との協業にも注力している。日本オラクル株式会社 クラウドプラットフォーム戦略統括 兼 一般社団法人Edgecrossコンソーシアム 井上憲氏によれば、オラクルは「企業や工場ごとに異なる工場内の生産設備と、クラウド上のITシステムとの接続を行う“仲介役”としてEdgecross仕様に対応したOracle Cloud接続用途のゲートウェイを提供。より幅広いIoT活用の実現に向け、企業・産業の枠を超えた協力と共働を推進している」のだという。
また、収集したデータをソリューションで活用するためには、“データのつなぎ合わせ”が肝であり、そこが壁になってはならない。オラクルは、専門技術を持たない現場の人々がプログラミングレスでさまざまなIoTソリューションを設定・利用できるプラットフォームの提供を通じて、ビジネスドリブンなIoT環境の創出を目指す。
もちろん、データは集めただけでは意味がない。分析にかけ、価値のある情報に変えて、次のアクションにつなげる必要がある。例えば、Oracle Database Cloudに蓄積した学習用データから機械学習モデルを生成し、リアルタイム処理に適用して予測などを行うシステムを組み上げれば、事前の対応を取ることができる。このような「IoT×AI」の組み合わせは、これまで実現できなかった高度なサービスの提供を可能にしていくだろう。
学習済みのAIモデルからハードウェアまでをトータルにカバーする
さて、AIに関するオラクルの基本戦略を見てみると、そこでは「ビジネスモデル、プロセス、課題設定」「スキルセット、体制」「ビジネスデータ」「インフラストラクチャ」が、エンタープライズでAIを活用する際のポイントとなっている。また大橋氏によれば、「AIを必要とする課題があるのか、あるなら目標は何か。必要なスキルをどう補うのか。さらにデータの入手、処理、管理をどうするか。それらの分析サイクルをどう高速化していくのか。これら4つのステップを支えるサービスやアプリケーションをトータルに提供できる」点が、オラクルのエンタープライズAIの大きなアドバンテージだという。
具体的には、学習済みのAIモデルからAIプログラムの開発・稼働基盤、GPUやフラッシュストレージなどのハードウェアまで、エンタープライズAIに必要なすべてのレイヤーをカバーする製品が提供されている。ユーザー企業は自社でAI環境をゼロから開発する必要がないので、ビジネスの要請に応じて最適のサービスやアプリケーションをスピーディーかつ容易に導入可能というわけだ。
また、世界最大規模のデータマーケットプレイスを自社で提供している点もオラクルのAIならではだ。さらに2018年5月には、データサイエンスプラットフォームのプロバイダであるDatascience.com社を買収して傘下に収めた。Datascience.comは非常に強力なツールであり、「プロジェクトの定義」「モデルの作成・学習」「学習済みモデル管理」「学習済みモデルのデプロイ」の4つのクラウドサービスを提供する。これを利用することで、ユーザーは分析モデルの開発から日常的な管理、さらに必要に応じたカスタマイズまでをトータルにこのプラットフォーム上で実行できるため、ビジネスオンデマンドでスピード感のあるAI開発サイクルを実現可能だ。
なお、オラクルのAIインフラとしてのGPU Cloudを利用している例には、株式会社GAUSSの同社のクラウドAIプラットフォーム「GAUSS Foundation Platform」がある。GAUSS Foundation Platformは、Oracle Cloud Infrastructure上で構築されており、同社が提供するGIレースのビッグタイトルも的中したというアプリ「AI競馬予測–SIVA–」や、AI技術を活用してファッション領域に特化した画像解析や自然言語処理などを行うEC管理システムなどを支える。株式会社GAUSS 営業部 野下龍氏によれば、Oracle Cloud Infrastructureを選んだのは、“簡単・低コスト・短期間”でAI事業展開が可能だったからとのことである。
エンタープライズ領域におけるブロックチェーンの活用基盤を実現する
IoT、AIと並んで注目のテクノロジーがブロックチェーンである。「インターネットに次ぐ革命」として期待を集めているとも聞く。ただブロックチェーンのイメージは、どうしても仮想通貨に偏りがち。しかし、大橋氏が指摘するように、ブロックチェーンの真価が発揮されるのはこれからであり、むしろエンタープライズ領域でこそ、さまざまな業種での利用の広がりが期待できるのかもしれない。
エンタープライズ領域におけるブロックチェーンの活用メリットとしては、信頼性や透明性のあるデータを共有でき、改ざんも不可能であり、なおかつプロセスの自動化や時間削減による効率化が実現できるといったことがある。この結果、適用領域としては金融、製造・小売、公共・公益、さらにヘルスケアなど、クリティカルなデータを扱うあらゆる業種・業態が対象となってくる。
こうした企業から期待を集めているのが「Oracle Blockchain Cloud Service」だ。日本オラクル株式会社 ソリューション・エンジニアリング統括 中村岳氏によると、このサービスは、オラクルがこれまでグローバルで築いてきたブロックチェーンの豊富な実績をもとに開発されている。主な特長としては、以下の5つがあるという。
- Pre-Assembled:事前構成済みの統合されたプラットフォームを提供
- Autonomous:従来の人手による運用/管理の手間を自動化で削減
- Open:ブロックチェーンを最大限活用できるオープンなネットワーク
- Enterprise Grade:エンタープライズ要件を満たす多彩で高度な機能
- Ease of Integration:他システムとの連携を容易にする開発環境
ブロックチェーンの持つポテンシャルを利用すれば、企業内の財務、会計流通などの重要な業務を効率化できる。その実現のためにも、企業の枠を超えたコンソーシアムなどを通じて、各社協働による技術変革を真剣に考える時期が来ている、とオラクルでは考えているようだ。
Oracle Blockchain Cloud Serviceでは、グローバルで約100社が参加したβプログラムが実施された。株式会社セゾン情報システムズもそれに参加。得意とする流通分野で、販売代理店間の在庫情報を共有する仕組みの実証実験を行ったという。同社 テクノベーションセンター 先端技術部 阪上要介氏いわく「全拠点の在庫量をリアルタイムで把握して、欠品による機会損失の最小化、デッドストックの解消を実現できた」とのこと。この仕組みをすべて自前で環境構築する場合、高度なスキル、運用の複雑さ、スケールの問題などハードルがいくつもあるが、Oracle Blockchain Cloud Serviceでは、データ連携ツール「DataSpider」と組み合わせることでにより数クリックで構築できたそうだ。
最後に、ブロックチェーンのユースケースから「ブロックチェーン+IoT」の例を見ておこう。下図は、イタリアのオリーブ会社のオリーブオイル取引におけるトレーサビリティと処理の効率化をBlockchainとIoTで行うソリューションだ。イタリア国内ではオリーブオイルのブランド偽装が多く、風味を変えるために硫酸銅などの化学薬品を使用した結果、健康被害が出てブランド品質が保てないといったことが大きな問題になっている。そこでこの会社では、オリーブオイルのトレーサビリティの項目として「どこで作られたか」「どう作られたか」「輸送の温度管理は正確か」「途中で開けられていないか」といった管理面に、契約処理のペーパーレス化による効率アップの計5項目を設定。さらに途中で人手が介在して不正が行われないように、IoTを活用して人手の介在を予防・検知する仕組みを構築している。
もう1つの例としては、ある税関でのIoTとBlockchainを使って税関処理を効率化する試みが挙げられる。ここでは従来物流コンテナのある場所までわざわざ担当者が行き、コンテナを開けて中身を確認していた。それがコンテナに設置したIoTセンサーで、コンテナが開けられていないことが確認できれば、出荷時に登録された通りの品物が入っていることが自明として、次の行程に回す処理を自動化できるようになる。
本稿で紹介した3つのテーマにおいて共通しているのは、オラクルが「ビジネスに誰でも、すぐに使えるプラットフォームやアプリケーション」を重要なコンセプトとして打ち出している点だ。いまだ急速に進化しつつあるIoT、ブロックチェーン、AIという最新テクノロジーを、積極的にエンタープライズ領域に広めていこうというオラクルのチャレンジに、今後も引き続き注目していきたい。
ダウンロードできます - Oracle Cloud Platform各種資料
「Oracle Cloud Platform ダウンロード資料集」サイトでは、IaaS、PaaSの50を超えるサービス群を統合したOracle Cloud Platformに関する製品カタログ、事例集、調査レポート、ホワイトペーパー、各種ドキュメントなどを配布しています。ぜひお気軽にご覧ください。