目指せ全体最適化!SIAMにおけるガバナンスの確立
SIAMの具体的な仕組みの話に入る前に、まずガバナンスがなぜ必要かをお話します。第1回の記事でも記載しましたが、複数SPがサービスを提供している企業では個別最適化(サイロ化)によりサービスが重複、無駄なコストが発生しているケースが多く見受けられます。また意思決定や管理方針が不明確で、担当者が属人的な判断を行うことで情報漏洩などの不祥事を引き起こすリスクも抱えています。ガバナンスとは、このような無駄なコストやリスクの発生を防ぎ全体最適の視点で意思決定と合意形成をするための仕組みを確立することです。
SIAMではガバナンスの意思決定機関として「委員会」を定義します。委員会は、参加するメンバーの階層に応じて戦略レベル、戦術レベル、運用レベルと3つの階層で構成されています。
上図はSIAMで定義されている委員会の例で、注目して頂きたいポイントが2点あります。1点目は、戦術レベル、運用レベルの委員会については原則SIが会議オーナーとなり委員会運営を行う点です。これは、顧客組織がIT戦略立案や契約管理などのリテインド能力(委託すべきではない能力)のみに特化し、エンドツーエンドのサービス品質についてはSIが責任を持つというSIAMの役割分担に合致したガバナンスの仕組みとなります。
2点目は、すべての委員会が個別領域ではなく領域を跨ったエンドツーエンドの観点で関係者を招集する点です。委員会でのアジェンダには領域横断の運用実績、KPI評価、課題対応状況おび情報共有などが設定され、全体最適な視点で見たときに顧客組織にとって価値あるサービスが提供されているかを評価します。なお、個別SP単位での運用実績や課題対応なども運用上必要となりますので、それらは別途会議体を設けて参加者も絞って開催します。
では、このような委員会で評価される統合されたKPIとは通常SPが定義するKPIと何が違うのかについて当社の事例を交えながらご説明いたします。
消費者目線でサービスを評価!「統合KPI」とは
SIAMでは考え方は定義されているものの、KPIの具体的な指標は示されていません。今回はアクセンチュアの事例をベースに、考え方および具体的なKPIの例をご紹介いたします。まずKPIの考え方について、当社では各SPのパフォーマンスを評価するためのKPI(個別KPI)と消費者目線、つまりエンドツーエンドの目線で統合的にサービスを評価するためのKPI(統合KPI)の2階層で評価を実施しています。
特に重要となるのは消費者目線で評価するための統合KPIです。以下、当社がSIAMを導入する際に、標準的に設定するKPIをいくつかご紹介いたします。
サービス復旧時間遵守率
システム障害に対してアラートを検知した日時から実際に利用者がサービスを利用できる状態(=サービス復旧)になった日時までの時間が、顧客と取り決めた時間に対して遵守できているかを評価する指標になります。
ポイントは、利用者がサービスを提供できる状態になって初めてサービス復旧と考えることです。サーバーが正常に稼働していても、データベースに正常にアクセスできていても、実際にユーザーが利用しようとした際に入力画面が表示されなければ意味がありません。エンドツーエンドのサービス品質が利用者の満足できる品質にあるのかを把握することが重要となります。
サービス消費者に対する納期遵守率
対象となる作業に対し、サービス消費者が依頼した日時から実際に依頼した内容が完了するまでの時間が依頼元と取り決めた時間に対してどの程度遵守されているかを評価する指標となります。
例えば新入社員が入社した際に調達するIT機器類の依頼をサービス消費者から受けた場合を考えてみましょう。SPの目線で考えるとサービスデスクはIDアカウントを発行する業務が終わったら完了、PCサポート目線ならば標準端末のセットアップが終わったら完了、インフラチームはメールボックスの作成およびファイルサーバーへの権限付与などが終わったら完了と考えてしまいがちです。しかし、実際に端末が新入社員に配布され、利用できる状態になっていなければサービス消費者の依頼に対して完了したとは言えません。このようにサービス復旧同様、エンドツーエンドのサービス品質がサービス消費者の満足できる品質にあるのかを把握することが重要となります。
この他にも、サービスの生産性を比較するための生産性指標やクラウド環境を考慮したリソース、課金状況の管理などコスト最適化の観点からもKPIを設定します。
ただし、導入する際にはいくつか注意点があります。1つ目は、どのSPに切り替わっても同じKPIで評価できる必要があるため、統合KPIは可能な限り標準化することです。2つ目は、特に統合KPIはツールのみで自動収集することは難しいため、エンドツーエンドのプロセスに関与する関係者の協力を得られるよう合意形成することです。プロセスが複雑な場合は、業務の標準化を実施したうえでKPIを設定するケースもあります。最後に、費用対効果も考慮し必要最低限のKPIからスモールスタートすることです。上記でご紹介したKPIを適用する際でも、重大なインシデントや重要なサービスに限定し徐々に範囲を拡大していくなど、導入計画はその企業の状況に応じて検討する必要があります。その際、「該当するKPIを定義することで何を評価したいのか。それがどう改善につながるのか」を明確にし、常に目的に立ち返って判断することが重要となります。
KPIが確定した後、それぞれのKPIについてサービスレベルを定義することになりますが、その際、各SPに積極的にサービス改善に取り組んでもらうため、「基準値」「目標値」という2段階での評価を実施することは有効なアプローチです。基準値は、現状の実力値として達成可能なレベルであり、ビジネスの継続性と費用対効果の観点から最低限満たすべき品質を定義した値です。一方、目標値は、現状の実力値では常時達成することが困難なレベルであり、さらなる改善活動を通じて到達すべき品質を定義した値です。この2つの値を改善のインプットにすることで顧客組織、SI、各SPが相互に能動的に動くことが可能になります。
更に改善意欲を高める仕組みとして、目標値を達成できた場合にアワード(報酬)を与える場合もあります。報酬の活用については各SPが協力的に仕事をしてくれる手段の1つとしてSIAMでも紹介されています。