日本のIT開発に残る悪しき”お客様第一主義”
「システム開発はユーザとベンダの協業である」とは昨今のIT訴訟の判決の中でも良く聞かれる言葉ですが、現実に私の周囲の開発を見ていると、この辺りをきちんと理解できているユーザやベンダはまだまだ少数派であるというのが実感です。
ユーザは「お客様」であり、IT開発はベンダに“お任せ"、ベンダもユーザには気を遣うばかりで、本来ユーザが負うべき責任、やるべき作業を怠っても、それを指摘したり是正したりという努力は十分にはできず、結局、ズルズルとプロジェクトが遅れ破綻してしまう。昔から変わらないIT開発の悪しき”お客様第一主義”です。
本来は、ユーザがプロジェクトメンバーとして責任を持った仕事をすることをベンダこそが監視するべきなのですが、特に古くから、お客様であるユーザ企業を良くも悪しくも大切に考える日本では、なかなか頭を切り替えられないというのも事実のようです。
今回は、そんな考え方から脱出できず、訴訟にまで発展してしまったプロジェクトの例をご紹介したいと思います。まずは、事件の概要からご覧ください。
(東京地方裁判所 平成27年3月24日判決より)
あるユーザ企業が基幹システムの刷新をベンダに依頼し、ベンダは要件定義作業の完了後、外部設計、開発、運用準備、移行支援作業の契約を受けて順次実施していった。ユーザからはフェーズに応じて順次費用の支払いも行われていたが、ある時、突然に後続作業の前渡金支払いを拒絶し、その後、契約解除の通知を送付してきた。
契約解除の理由としてユーザ企業が訴訟において主張したのは、(ベンダが順次リリースした) 成果物には多数の未納や遅延・不備があり、これは履行遅滞による債務不履行にあたるということだった。
一方で、ベンダはこの契約解除通知は、民法641条(注文者による請負契約の解除)に基づく解除通知(ユーザの都合による解除)であるから、ユーザ企業が損害賠償責任を負うと主張し、当初約束した開発費用の支払いを求めた。