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「ちょっとだけ待ってくれる?」が潰すITプロジェクト

edited by DB Online   2019/10/09 06:00

ユーザの「ちょっとだけ待って」がプロジェクトを潰す

 ご覧の通り、裁判所はベンダ側の主張をほぼ全面的に認めて、損害賠償の支払いをユーザ企業に命じました。ユーザからすれば結局、業務に寄与するシステムを手にすることなく、ただ数億円のお金を支払えというわけですから、まさに踏んだり蹴ったりと言っても良いでしょう。

 外部インタフェース仕様整理遅延、移行作業方針及び移行処理方式への未回答、環境の構築の延伸。これらはいずれもソフトウェアの中核を開発するというより、導入に向けた準備に関連するような作業であり、作業順を考えると、多少、遅れても何とかなりそうに見えるものではあります。これくらいのことが遅れるのは、それほどの重大事にはなるまいとユーザ企業が考えたとしても不思議ではありませんし、事実、このユーザ企業もそうだったのでしょう。

 移行方式なんて今やらなくても、ベンダも開発に忙しいし自分達にも本来の仕事がある。少しくらいは待たせても全体への影響は限定的なはず。実際、そんなユーザ企業の担当者の言葉を私も何度か聞いたことがあります。

 確かに、IT開発でユーザが担当する作業の中には今すぐにやらないでもなんとかなるものも含まれています。「この部分の要件定義は今月中となってますが多少なら遅れてもなんとかなります」ベンダがそう言ってくれる作業もあるにはあるわけです。

 しかし、そういう特別な作業はむしろ少数派でしょう。多くの場合、スケジュールは余裕なく組まれており、ベンダにもユーザの作業遅れを吸収する余裕などないのが普通です。当初決めたスケジュール通りにユーザが作業をしてくれたり、判断をしたり、あるいは情報提供をしてくれないことには、最終的な納期を守れないということの方が圧倒的に多いものです。

 つまり、この裁判は結局、ユーザが自分の作業の納期を守ることの大切さ、守れなかったときの影響の大きさを十分に認識していない、そういう甘さが招いた失敗の典型的な例ということができるのです。


著者プロフィール

  • 細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

    ITプロセスコンサルタント 東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員 1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より2012年まで日本アイ・ビー・エム株式会社にてシステム開発・運用の品質向上を中心にITベンダ及びITユーザ企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行なう。現在は、東京地方裁判所でIT開発に係わる法的紛争の解決を支援する傍ら、それらに関する著述も行なっている。 おもな著書に、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか? 49のトラブルから学ぶプロジェクト管理術』 日本実業出版社、『IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則』。

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