ユーザの「ちょっとだけ待って」がプロジェクトを潰す
ご覧の通り、裁判所はベンダ側の主張をほぼ全面的に認めて、損害賠償の支払いをユーザ企業に命じました。ユーザからすれば結局、業務に寄与するシステムを手にすることなく、ただ数億円のお金を支払えというわけですから、まさに踏んだり蹴ったりと言っても良いでしょう。
外部インタフェース仕様整理遅延、移行作業方針及び移行処理方式への未回答、環境の構築の延伸。これらはいずれもソフトウェアの中核を開発するというより、導入に向けた準備に関連するような作業であり、作業順を考えると、多少、遅れても何とかなりそうに見えるものではあります。これくらいのことが遅れるのは、それほどの重大事にはなるまいとユーザ企業が考えたとしても不思議ではありませんし、事実、このユーザ企業もそうだったのでしょう。
移行方式なんて今やらなくても、ベンダも開発に忙しいし自分達にも本来の仕事がある。少しくらいは待たせても全体への影響は限定的なはず。実際、そんなユーザ企業の担当者の言葉を私も何度か聞いたことがあります。
確かに、IT開発でユーザが担当する作業の中には今すぐにやらないでもなんとかなるものも含まれています。「この部分の要件定義は今月中となってますが多少なら遅れてもなんとかなります」ベンダがそう言ってくれる作業もあるにはあるわけです。
しかし、そういう特別な作業はむしろ少数派でしょう。多くの場合、スケジュールは余裕なく組まれており、ベンダにもユーザの作業遅れを吸収する余裕などないのが普通です。当初決めたスケジュール通りにユーザが作業をしてくれたり、判断をしたり、あるいは情報提供をしてくれないことには、最終的な納期を守れないということの方が圧倒的に多いものです。
つまり、この裁判は結局、ユーザが自分の作業の納期を守ることの大切さ、守れなかったときの影響の大きさを十分に認識していない、そういう甘さが招いた失敗の典型的な例ということができるのです。