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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

基本契約時の見積と乖離した個別契約の金額は有効か


ベンダのプロジェクト管理義務とユーザに求められること

 そうは言っても、個別契約の段階ではユーザ企業も納得したのではないかという意見もあるでしょう。(個人的には、私もそのように思います) しかし、ここで考えるべきは、ユーザ企業のソフトウェア開発の知識レベルです。

 IT企業ではないユーザ企業からすると、要件定義段階で詳細な機能を詰めるうちに、ITベンダから、その機能を追加するなら費用が変わります、そこまで望むなら、見積は変更させていただきますと言われてしまえば、それに従うしかありません。

 私達が病気にかかったとき、その治療方法と費用をお医者さんの判断に任せざるを得ないのと同じように、その知見に圧倒的な差がある専門家から、「かかる費用はかかる」と言い切られてしまえば、それに従わざるを得ません。

 そうした知識格差がある以上、専門家であるITベンダは、相手の予算状況も良く吟味して、必要なら機能追加を断ったり、もっと安く済む方法を検討して提案しなければならない。そうした専門家としての責任がITベンダにはあるというのが、この判決の裏にある一つの考え方のようです。

 正直なところ、私がこの判決に100%納得しているかと言えば、そんなことはありません。しかし、ITベンダが専門家として、ユーザ企業のITスキルも考慮し、十分な説明を行うこと。そして必要に応じて機能の削減や方式変更の提案も行って、プロジェクトの予算を守るべきであるというのは、良く言われる「ベンダのプロジェクト管理義務」の考えとも通じるところもあります。このITベンダにも、そうした慎重さが求められたということだったのだと思います。

 一方のユーザ企業側からしても、やはりITベンダ側が当初と異なる見積を出したとき、軽々に個別契約を結んだり、変更したりせず、良く理解できるまで話を聞くと共に、なんとか予算内に収まる方法はないのかと、食い下がるある意味しつこさのようなものが求められるのかもしれません。

 「ソフトウェア開発はユーザとベンダの協業である

 別の訴訟で、裁判官が言ったこの言葉の意味を、改めて考えさせられた判例でした。(了)

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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