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SaaS/サブスクリプションビジネス最前線

国内SaaSスタートアップの先駆者マネーフォワード、上場後も変わらないビジョンに基づく組織づくり

「ALL STAR SAAS CONFERENCE TOKYO 2019」#3


 2012年5月に創業し、お金の見える化サービス「マネーフォワード ME」、バックオフィスSaaS「マネーフォワードクラウド」シリーズの二本柱でビジネスを成長させてきたマネーフォワード。2017年9月には東京証券取引所マザーズ市場への上場も果たした。この記事では、11月7日に開催された「ALL STAR SAAS CONFERENCE TOKYO 2019」で行われたパネルディスカッション「IPO後も高成長を続けるSaaSの基盤」で明かされたSaaSスタートアップの組織づくりを紹介する。

マネーフォワード流プロダクト開発の方針

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻庸介氏<br />  モデレーター:ALL STAR SAAS FUND Managing Partner 前田ヒロ氏

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻庸介氏
モデレーター:ALL STAR SAAS FUND Managing Partner 前田ヒロ氏

前田:創業期と比べると、マネーフォワード クラウドのプロダクトは随分増えましたよね。二つ目のプロダクトを出そうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

辻:プロダクト開発ではお客様の要望が基になることが多いです。当時、マネーフォワード MEのユーザーにアンケートで意見を聞いたところ、最も多かったのが「確定申告を楽にしてほしい」というものでした。僕はソニー時代に経理だったこともあり、会計と確定申告を簡単にしたいと思ったんです。そして、「マネーフォワード クラウド会計・確定申告」をリリースしました。今は個人事業主向けと法人向けに分かれていますが、最初と2番目のプロダクトの顧客属性は同じです。会計は各種システムとシームレスにつなぎたいというニーズがあるので、その後「請求書」「給与」「マイナンバー」「経費」「勤怠」と新しいプロダクトをリリースしてきました。

前田:新しいプロダクトを考えるときは、ARR(Annual Recurring Revenue)の予測を基に判断しているのですか。

辻:上場してから、TAM(Total Addressable Market)の分析もしていますが、創業3年目ぐらいまでは「既存のプロダクトではできない新しい価値を提供できるか」で決めていました。「僕らがやれば、世の中を前に進むことができるということ」に燃えるので、他のプレイヤーがやっていることに興味はないですし、ARRもあまり考えません。

前田:10月に発表した第3四半期の決算では、売上高が50億円弱、前年同期比158%成長です。ここまでの規模になると、売上へのインパクトを考えませんか。

辻:リソースの最適な配分は考えないといけませんが、「マネーフォワードが存在するために何をするべきか」の方が大事です。「他の会社ができないことをやろう」という議論を社内ではよくしています。

前田:創業当初からビジョンや経営の方向性に変化はありましたか。

辻:根本的には変わりません。ミッション、ビジョン、バリューを大切にしていて、綺麗事ではなく、そうありたいと思ってくれる人たちに入社してもらっています。創業時に経営陣で全社共通で守るべき価値観は何かを徹底的に議論する時間を作りました。早い時期に決める方が楽だと思います。意見が「49:51」に割れたとしても、「User Focus」「Technology Driven」「Fairness」というバリューに即して判断すれば、日々の意思決定を早くすることができるのです。

価格を決めるのは経営者の仕事

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻庸介氏

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻庸介氏

前田:SaaSの会社の経営でよく聞くのが、一定の規模を超えるとオペレーションがサイエンスになるということです。最初はアートでも、一度サイエンスモードになると、オペレーションの最適化をやりすぎて、経営者としてのビジョンが弱くなったり、成長が鈍くなったりすると感じることはありませんか。

辻:アートからサイエンスに移ったら、もう一度アートに戻ると思います。人の意思決定には合理性がありますが、合理性を超えるとそこから先は感情の領域です。例えば、なぜマネーフォワードを選ぶのかを分解すると、「営業がいい人で自分たちに寄り添ってくれる」など、感情が裏にあることが多い。ですから僕たちのプロダクトのコンセプトは「ココロ動かすクラウド」にしています。お客様は必ずしも合理的な意思決定をすると限りません。サイエンスも必要ですが、ユーザーをハッピーにするのは感情で、経営の仕事はそのビジョンを示すことだと思います。

前田:クラウドには冷たいイメージがありますが、「ココロ動かすクラウド」というコンセプトは良いですね。2019年5月から新しい価格体系に移行したと聞きました。料金プランを変更するのは何度目ですか。既存顧客の新料金への移行を促すため、どんなサポートをしましたか。

辻:価格を変えるのは苦手で、創業して7年目になる今回が初めてです。それまでは各プロダクトをバラ売りする一方、途中から各プロダクトを一体的に使える「バリューパック」も提供してきました。バリューパックへの支持の高さを通じてわかったのが、プロダクトをまとめて使いたいというニーズです。実際、ツールを一つだけ使うより、複数のツールを併せて使う方が生産性は高くなります。様々なお声をいただく中で、ユーザーがハッピーになるのであれば、その提供方法で進めようという決断をしました。僕たちとしてもチャーンレートを下げて、アップセルにつなげることができます。

とはいえ、「いいね」と言ってくれるユーザーもいれば、解約してしまうユーザーも出てきますから、開発から、営業、カスタマーサクセス、サポートに至るまであらゆる部署が価格変更の背景を理解し、ユーザーに正しく説明できるよう、変更意図を周知徹底するようにしました。

前田:SaaSビジネスでは最初の価格設定が正しいとは限りません。プロダクトが増える場合、パッケージ化は避けて通れないと思います。

辻:過去7年間、価格を変えずにやってきましたが、その傍らで新機能を開発し続けてきたわけです。以前のプロダクトよりも価値が向上しているという確信はありました。社内には常日頃から「僕たちの提供価値を上げよう」と伝えています。

セールスフォースに代表される海外ベンダーは1年に一度、あるいは2年に一度価格を上げていますし日本市場でも受け入れられる環境を作らないといけないとも思います。売上を増やし、会社を成長させないと、社員に良い給料を払うこともできません。営業はとかく安く売りたがる傾向がありますが、価格が安ければいいというものではありません。お客様の満足と提供価値とのバランスが重要です。「値付けは経営」という言葉が表すように、競合の動向も見ながら、全体のバランスを考えて価格を決める仕事は経営者にしかできないと思います。

お客様は様々ですが、「こんなに良くなるのか」という好意的な方もいただけたのではないかという印象です。むしろ今までの提供価値に対する価格が低すぎたと思います。

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成長と共に変化した顧客セグメント

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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