DXは企業変革を行い、競争上の優位性を確立する手段でしかない
康隆氏:譲さんがSAPに入社された当時はERPの黎明期で、日本企業の基幹業務システムに対する考え方をドラスティックに変える必要があったと思います。それらをSAPで長年、日本の大手企業相手に見てこられて、企業の変革や新しいものを取り入れていくために日本企業には何が必要だと思われますか?
譲氏:CIOが本当の意味で経営に参画すること、は必要でしょうね。SAP時代、顧客の経営会議に参加させて頂いたことが多くありましたが、そもそも経営会議に日頃お目にかかっているCIOが出席していない。あるいは出席していても、後ろのほうの席に座っているなど、「これでは経営戦略とIT戦略は連動しないだろう」というケースを多く見てきました。
もちろん任命する経営側にも課題はあるでしょうが、それにしても経営会議に出席しても発言しないようでは、このように思われても仕方ない。私自身も肝に命じていますが、CIOも経営チームの一人であり、ITやデジタルの視点から経営層の中でリーダーシップを発揮することは義務でしょう。
ITサービス企業としての富士通が、自分たち自身でITやデジタルを戦略的に活用し、進化・成長していけば、他の日本企業のお役にもっと立てるようになる。あの富士通が変わるのであれば、私たちも変われるだろう、と。大きな会社というのは、そうやって経済や社会の進化をけん引する役割も担う責任があるはずです。
康隆氏:日本企業の大きな経営課題としてDXが叫ばれるようになって久しいですが、このDXの定義、そして課題についてはどうお考えでしょうか? CIOにとっても大きなテーマだと思います。
譲氏:まず、DXというのは手段であって目的ではありません。経済産業省の定義では以下のようになっています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”
——経済産業省 DX推進指標(2019年7月)
そのために、私は社長である時田(富士通代表取締役社長・時田隆仁氏)が兼務するCDXO(最高デジタル変革責任者)の補佐として経営戦略を実行するために、マーケティングや人事、プロジェクトのデリバリーなど多方面の状況を整理し、戦術面を練り上げる——。各領域を担当する役員たちと常に連携し、「富士通がありたい姿」をアップデートし続けます。現在の姿(As-Is)とありたい姿(To-Be)には必ずギャップが出てくるでしょう。そのギャップを今の時代ならではのやり方、すなわちITやデジタルも有効に活用して解いていきます。
つまり、川の流れで表すと上流が経営、中流がDX、下流がITでこの流れを整えていくことが私の役割であり、その整え方の手法がDXだととらえています。経産省の定義の通り、変革をして、競争上の優位性を確立させるのです。
今は日本史でいうと、長篠の戦い。織田信長は武田軍との戦いで、鉄砲を用いてこれまでの戦争のやり方を一変させました。これまでの戦い方から変革できない者はどれだけ強くても滅び、新しい戦い方をした者だけが生き残る時代です。考え方を変えられた企業だけが、成長を続けていけるのです。
康隆氏:長篠の戦いはおもしろい例えですね。メディア的なアプローチで見ると、故スティーブ・ジョブズが1985年にスウェーデンの講演で「新しいコミュニケーション手段が登場すると、人は古いやり方を新しいものに当てはめようとする。最初のテレビ放送はラジオ番組をカメラで放送したものだった」と話していました。人は昔のやり方にFall backしがちということですよね。ネイティブな発想ができない。