SAPの変革、そして成長の10年を内側で見た知見を日本企業へ
康隆氏:これまでグローバル企業のマネジメントの一員として学ばれた事も多いと思います。SAPでのマネジメント経験で特に学びになった事、大事にしていることで、現職でも生かしていきたいことがあれば教えてください。
譲氏:SAPもドイツ企業からグローバルカンパニーになれずにもがいた時期があります。たとえば、過去の成功体験からクラウドに乗り遅れたり、自前主義にこだわりすぎたり……しかし、2010年にSAPアメリカのCEOからSAP AGの共同CEOに就任したビル・マクダーモットと経営陣によって、ドイツ企業SAPは大きく変わりました。
2010年以降、SAPの時価総額は390億ドルから2018年2月には1,447億ドルにまで増加。当時は現CEOも含めた経営チームが7人〜10人、全員横並びでディスカッションをしながら物事を決めていました。
この経営チームはビル自身もアメリカ人であるように出身も出自も多様。そのため出てくるアイデアもいわゆるドイツ的なものではなく、非連続の打ち手ができるようになっていきました。社風もこの10年で大きく変わったと思います。多様性とチームワーク、そして戦略と実行に妥協がない現在のSAPのスタイルは、この時築かれたと思います。
経営チームが率先して自分たちを律してグローバルを統制し、ワンチームにまとめていきました。このプロセスを日本人として内側から見られたことは、非常に大きな経験ですね。企業はこうやって変革していくのか、と。その気づきを日本人として、日本企業や日本のビジネスパーソンに伝えていきたい、自ら体現したいという思いがあります。
康隆氏:多様性という言葉も、最近よく出ていますが、男女比率などの数値目標ばかりに目がいってしまう経営層も多いように見受けられます。この点については、どのようにお考えでしょうか。
譲氏:確かに外国人比率、男女比、世代など多様性が叫ばれていますね。でも、私はそういうカテゴリーに関係なく、人はそもそも多様だと思っています。同じ40代・日本人・男性であってもみんな違う。
しかし、日本は特にそうですが周りからの同質化への圧力がありますよね。だから、外国人や女性を増やせばいいとかではなく、その人が持っている持ち味を発揮しやすい風土に会社をしていく必要があります。誰もが自分らしさを発揮できる環境・カルチャーを作っていく。多様性は、国籍や性別・年齢を超えた、もっと普遍的なものでしょう。
康隆氏:それはすごく大事なポイントですね。環境やカルチャーづくりこそ、リーダーの役割。最後に、まだ富士通に入社されて間もない時期ですが、今後取り組むテーマについてお聞かせください。
譲氏:データドリブンな経営が重要と捉えています。今まではデータは補助的なものでしたが、主従は逆転しています。未来を予見するためにデータがあり、そのデータを生成するために業務があるという考え方に、主従を逆転させることが大事です。
「業務のためのシステムやデータ」ではなく、「未来を予見するデータを得るために業務があり、システムがある」という方向へとシフトさせていきます。ITの戦略的活用とは、「業務の処理」から「経営全体の最適化」へと経営全体でモードを変えることです。データでビジネスをサイエンスする、というテーマはとても興味深く、ぜひチャレンジしていきたいですね。
康隆氏:ありがとうございました。