
エンタープライズITにおいても活用が進むクラウド。そうなると付き合う必要がでてくるのが、約款です。今回は約款に見え隠れする落とし穴について、実際の判例に基づいて解説します。
交渉の余地がないクラウド契約
昨今、企業のIT活用においてクラウド導入が珍しくなくなりました。そうなると厄介なことの一つに約款というものがあります。
ご存じの通り約款というのは、サービス提供者が不特定多数の顧客に対して一律に、自らの提供するサービスや負うべき責任、免責事項を記したものです。法律的に見れば、これも債権債務と関係を持つ契約の一種として位置づけられます。
不特定多数の顧客を相手にという訳ですから、クラウドサービスの契約はほとんどが、この約款によっています。オンプレミス開発における業務委託契約などであれば、開発するベンダの作業や成果物、負うべき責任について交渉し、システムやプロジェクトの特性等々も踏まえて、個別の契約ができます。
しかしこの“約款”というものになってしまうと、交渉の余地はなく、「これに同意いただけないなら、お使いいただかなくて結構です」という姿勢となります。なかなか“取り付く島もない” 契約形態といえるでしょう。

しかも約款の中身をよく見てみると、かなりクラウドサービス業者側に有利な条件を並べています。クラウドサービス業者は世界中のわがままな顧客を相手にしているため、致し方のないことではありますが、特に何かトラブルがあった際の責任の範囲については、かなり限定的にしているものが多いようです。
今回取り上げる例も、トラブルが発生した際の約款の効力を巡って争われた例です。厳密にいえば、クラウドサービスというよりも、レンタルサーバ契約を巡っての争いになります。恐らく、このあたりの考え方はクラウド時代にあっても、ほぼ同じになるかと思います。
判例は、以前にも取り上げたもの(※)になりますが、前回はベンダによるデータ消失の責任という切り口で取り上げましたので、今回は少し違う角度で同じ判決を見てみましょう。事件の概要からご覧ください。
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- この記事の著者
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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