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顧客データをなくしても責任はない?クラウドの約款に見え隠れする落とし穴

edited by DB Online   2020/07/06 10:00

いかに常識外れでも“契約は契約”?

 この約款を理由に建設業者の請求を拒むプロバイダとの間には、当然に激しい論争が起きました。1億という金額の妥当性については、一旦置くとしても責任がほぼゼロということはないだろうという気持ちは、客観的に見ている私にも十分わかります。

 しかし、約款つまり契約は契約です。いかに不釣り合いなものであっても両者がこれに同意していれば、双方の債権債務は、基本的にはこれに基づいて判断されることになります(契約自体が他の方に抵触する等無効なものでなければの話です)。

 そうは言ってもこのままでは流石に建設業者も感情論として納得はしないでしょう。契約以前に商取引の常識的な考え方からすれば、多くの人がプロバイダの責任は大きいはずと考えるのではないでしょうか。世間の常識とはかけ離れているように見える約款、しかしそれを受け入れて成立してしまった契約。裁判所はこのあたりをどのように判断したのでしょうか。続きを見てみましょう。

(東京地方裁判所 平成13年9月28日判決)

 本件約款34条は、契約者が被告のインターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも、被告は、本件約款30条の規定によるほかは責任を負わないことを定めているが、その本件約款30条は,契約者が被告から提供されるべきインターネットサービスを一定の時間連続して利用できない状態が生じた場合に、算出式に基づいて算出された金額を基本料月額から控除することを定めているにすぎない。

 これらの規定の文理に照らせば、本件約款30条は、通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して利用不能となったケースを想定して免責を規定したものと解すべきであり、本件約款34条による免責はそのような場合に限定されると解するのが相当である。

 実質的にも、被告の積極的な行為により顧客が作成し開設したホームページを永久に失い損害が発生したような場合についてまで広く免責を認めることは、損害賠償法を支配する被害者救済や衡平の理念に著しく反する結果を招来しかねず、約款解釈としての妥当性を欠くことは明らかである。

 本件は、前述のとおり、被告の本件注意義務に違反する行為によって原告が作成開設したホームページを喪失して損害を被ったと認められる事案であり、通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して不能となった場合には当たらない。よって,本件約款34条は、本件には適用されないと解すべきである。


著者プロフィール

  • 細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

    ITプロセスコンサルタント 東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員 1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より2012年まで日本アイ・ビー・エム株式会社にてシステム開発・運用の品質向上を中心にITベンダ及びITユーザ企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行なう。現在は、東京地方裁判所でIT開発に係わる法的紛争の解決を支援する傍ら、それらに関する著述も行なっている。 おもな著書に、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか? 49のトラブルから学ぶプロジェクト管理術』 日本実業出版社、『IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則』。

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