SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

直近開催のイベントはこちら!

EnterpriseZine編集部ではイベントを随時開催しております

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

顧客データをなくしても責任はない?クラウドの約款に見え隠れする落とし穴

いかに常識外れでも“契約は契約”?

 この約款を理由に建設業者の請求を拒むプロバイダとの間には、当然に激しい論争が起きました。1億という金額の妥当性については、一旦置くとしても責任がほぼゼロということはないだろうという気持ちは、客観的に見ている私にも十分わかります。

 しかし、約款つまり契約は契約です。いかに不釣り合いなものであっても両者がこれに同意していれば、双方の債権債務は、基本的にはこれに基づいて判断されることになります(契約自体が他の方に抵触する等無効なものでなければの話です)。

 そうは言ってもこのままでは流石に建設業者も感情論として納得はしないでしょう。契約以前に商取引の常識的な考え方からすれば、多くの人がプロバイダの責任は大きいはずと考えるのではないでしょうか。世間の常識とはかけ離れているように見える約款、しかしそれを受け入れて成立してしまった契約。裁判所はこのあたりをどのように判断したのでしょうか。続きを見てみましょう。

(東京地方裁判所 平成13年9月28日判決)

 本件約款34条は、契約者が被告のインターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも、被告は、本件約款30条の規定によるほかは責任を負わないことを定めているが、その本件約款30条は,契約者が被告から提供されるべきインターネットサービスを一定の時間連続して利用できない状態が生じた場合に、算出式に基づいて算出された金額を基本料月額から控除することを定めているにすぎない。

 これらの規定の文理に照らせば、本件約款30条は、通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して利用不能となったケースを想定して免責を規定したものと解すべきであり、本件約款34条による免責はそのような場合に限定されると解するのが相当である。

 実質的にも、被告の積極的な行為により顧客が作成し開設したホームページを永久に失い損害が発生したような場合についてまで広く免責を認めることは、損害賠償法を支配する被害者救済や衡平の理念に著しく反する結果を招来しかねず、約款解釈としての妥当性を欠くことは明らかである。

 本件は、前述のとおり、被告の本件注意義務に違反する行為によって原告が作成開設したホームページを喪失して損害を被ったと認められる事案であり、通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して不能となった場合には当たらない。よって,本件約款34条は、本件には適用されないと解すべきである。

次のページ
約款にもカバーしていない部分があり、常識に照らすことはやはり大切

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket
  • note
紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/13164 2020/07/06 10:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング