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顧客データをなくしても責任はない?クラウドの約款に見え隠れする落とし穴

約款にもカバーしていない部分があり、常識に照らすことはやはり大切

 私たちのような素人がこの約款を見ると、プロバイダ側が自己の責任を最小化するために隙なく埋めたような文言に見えるのですが、裁判所の視点は少し違いました。この約款はサービスが止まったことについての免責ではあるが、自身の管理義務違反によってファイルを消失させたプロバイダの責任は、それとは別に論じるべきとしています。

 そして、「実質的にも~」以降の部分が印象的です。契約条項として明文化はされていなくても常識や社会通念に照らして考えれば、こうした際のプロバイダの免責を際限なく広く認めることは、いかにも不公平であると述べています。

 裁判というと明文化された契約を金科玉条として杓子定規な判断をすると思われがちですが、実際にはこのように常識に照らして判断し、法律自体も解釈をすることで、「浮世離れ」した判決を出さないようにしているようです。

 いずれにせよ、このように約款はそこに書かれていないことも含めて、様々なケースを考慮して読み解く必要があります。特に契約担当者は、こうした文書に慣れておく必要があります。

 昨今のクラウドサービス業者は、その多くが海外のベンダであることもあり、約款を良く読むと、かなりプロバイダ側に有利な文言も含まれています。無論こうしたベンダは特別な場合を除いて個別の契約などは結んでくれませんので、ユーザ側としてできることは限られます。

 ただ少なくとも複数のクラウドサービス業者の約款を見比べ、自分達が利用しようとしているサービスと自分たちの業務あるいは、何か事態が起こった際の損失をよく考えることは重要でしょう。少しでも有利な約款の解釈ができるところを探すのも、これからクラウドを利用するユーザ側にとっては大切な仕事になるかもしれません。法律の専門家と共に、読み解くことができるならそれが一番です(了)。

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

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