苦闘の19年 新勘定系システム「MINORI」の開発
今回紹介するのは、「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」という一冊。巨額の予算が投入された史上最大のITプロジェクトとして、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。1980年代末から利用され続けていた勘定系システムは老朽化し、2002年4月と2011年3月に2度も大規模なシステム障害を起こしました。これを機会に2011年6月から本格的に開始された新勘定系システム「MINORI」の開発プロジェクトは、2度にわたる大幅なスケジュールの延期を決断しなければならないなど、苦難の連続でした。
CIOはどこにいる
1992年12月22日、第一勧銀と富士銀、興銀の経営統合に伴って「みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)」と改められ、同時に既存の情報システムの統合方針が明らかにされました。このとき、発表された構成メンバーにはCSOやCFO、CRO、CCOの名前はあるものの、CIOが記載されていませんでした。記者の「CIOは経営会議のメンバーではないのでしょうか」という質問に、当時の山本頭取は「ぬかりなくやる所存」と回答しています。
「戦略的なIT活用」を掲げながらもCIOというポジションを設けておらず、本格的な勘定系システムの開発を経験したことのある担当役員は皆無だったのです。さらに、2002年4月までの間に三行の担当役員はすべて人事異動。体制面での大きな不備が統合当時から存在していました。
そして、CIO不在のなかで2002年4月に最初の大規模システム障害を引き起こし、新システムへの刷新を試みるも2011年3月に2度目の大規模システム障害を引き起こして、金融庁から異例の業務改善命令が下されしまいます。
では、なぜこのような最悪の事態を迎えたのか。本書では、そのさまざまな要因を解説するなかでCIOの責務についても言及しています。
実はこのとき、みずほFGとみずほ銀行、みずほコーポレート銀行にはそれぞれ情報システム部門が存在し、CIOも会社ごとに別だったのです。つまり、システム障害が起きてもCIOをはじめとした情報システム部門同士で情報共有をすることができず、方針もバラバラの状態でした。
これを反省し、2012年6月にみずほFGの安部グループCIOが、常務取締役に就任。さらに、みずほFGの取締役副社長とみずほ銀行の副頭取も兼務。1992年以来、取締役会のメンバーでなかったCIOが、ようやく経営トップに位置した立場でシステム刷新を推し進めることができるようになったのです。
企業におけるCIOの重要性は、組織が大きくなるほど高まっていきます。本書では、「MINORI」の開発プロジェクトの成否に欠かせない存在として随所で描かれるため、CIOに対する認識を深める契機にもなることでしょう。
このほかにも、情報システムは経年劣化しブラックボックス化してしまうことを、大規模システム障害とともに解説してあったり、システム部門以外との連携の重要性が説かれたりと、システムに関わるすべての方の知見が深まる内容となっています。
みずほ銀行のシステム刷新の歴史は負の側面だけで描かれることも多いのですが、本書ではリアルな現場な声と細緻なレポートによって、第三者視点でしっかりと19年におよぶ歴史を紹介しています。
CIOの活躍がますます期待される現在の日本において、本書は改めてCIOの役割とはなにかということを考えることができる一冊となっています。ぜひ、本書でCIOと情報システム部門の在り方を考えてみてはいかがでしょうか。
みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」
日経コンピュータ、山端 宏実、岡部 一詩、中田 敦、大和田 尚孝、谷島 宣之 著
出版社:日経BP
発売日:2020年2月18日
価格:1,980円(税込)
本書について
「IT業界のサグラダファミリア」。そう揶揄されることもあった、みずほ銀行における「勘定系システム」の刷新と統合プロジェクト。なぜ2度に亘る延期を行ったのか、そしてCIOを筆頭とした現場はどのようにプロジェクトを結実させたのか。本書は、みずほ銀行におけるシステム統合の19年を網羅した一冊です。