「やってみたい」と思える具体的なコンセプトを作れ
本題に入る前に、前回の連載をご覧になった数名の方から同様の質問をいただいたので、先に回答しておきたい。質問の主旨は、「マーケティングで何を実現したいか」「顧客が企業や商材に求める価値は何か」「顧客が購買するまでのプロセスの王道は?」(以下、まとめて「コンセプト」と呼ぶ)といった抽象的な議論では、どれくらい具体的な結論に落とし込めばよいか、というものだ。
私なりの回答は「関係者が“これならやってみたい”という熱量を持てるほど具体的なコンセプトであることが極めて重要」である。
例えば「新規顧客獲得数を対前年比XX%にする」といった数値目標は具体的である。しかし、もし裏づけとなる根拠が明確でないなら、単なる「数字遊び」になってしまう。どう達成してよいか分からないのだから、企画を進める担当者にとっては不安しかない。「このままでは数字を達成できそうにない」となってから慌てて「数を稼ぐだけのイベント」を乱発するのは本末転倒である。「これならやってみたい」という数値目標を掲げるには、数年間のマーケティングデータや営業の売上目標など、様々な数値を分析し、関係者全員が「これならやれそうだ、やってやろう」となるものでなければならない。
また、「顧客にもっと寄り添う」「顧客の声なき声を聞く」といった抽象的なコンセプトも「これならやってみたい」とはならない。主張の異なる各方面に忖度しまくると、こうした耳障りの良い、どの会社にも当てはまりそうなコンセプトになってしまう。「我々らしさ」のないコンセプトでは、とても「やってみたい」と思えないだろう。
つまり、根拠のない具体性も、「らしさ」の見えない抽象性も、「これならやってみたい」という熱量を生みにくい。コンセプトは、企業の理念や顧客とのウェットな関係性がにじみ出るものでなければならない。マーケティングの4Cの最初が「Customer Value」であることを思い出してほしい。社内の部署の都合や他社の事例に捕らわれず、顧客のほうを向いた議論をしよう。
マーケティングを動かしていく上で拠り所となるようなブレないコンセプトを固め、関係者がこれを意識しながら活動することで、「我々らしい」施策やコンテンツを作ることができるし、外的環境が変化すればコンセプトを見直すことができる。関係者全員がコンセプトを揃えている状態は「スーパープレイヤーに頼らない」ための第一歩と言えるだろう。