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デジタル化を織り込んだマーケティング組織の描き方 Marketo Master/Marketo Champion 谷風公一の集中講座【連載第3回】

顧客とのつながりを強めるための「生け簀」を作れ

 マーケティング改革に関する施策の中で最も難度が高いのは、マーケティングの枠を超えた大きな組織変革だろう。前回の連載で、弊社事例に「顧客をファンの度合いに応じた生け簀で管理する」という施策があったが、これはまさに、マーケティングと営業の部門間の壁を取り払い「ひとつのレベニュー組織」作りに取り組むためのテコとなった。この考え方は、顧客と向き合うフロント組織をトータルで見直す際の参考になると思うので、触れておきたい。

 「生け簀」とは、文字通り、養殖業で魚を生育するための設備である。近年、生け簀はかなりデジタル化が進んでいる。各生け簀を泳ぐ魚の数や発育状況の確認、魚に合わせた餌の配合や量の調整、次の生け簀へ魚を移してよいかどうかの判断、実際の魚の移動など、これまで漁師の経験と勘でやってきた作業の大部分が、IoTやAIに置き換わっている。これにより、漁師は、今まで以上に市場のニーズにあった魚をどう育てるか、需給のバランスをいかに見極めるか、などのコア業務に専念できるようになっている。今や、生け簀漁は人とITの協働の場になっているのだ。

 私は、こうした近代的な生け簀の考え方は、そのまま、デジタルマーケティング時代の「顧客と企業の関係性構築の仕組み」に応用できると思っている。顧客を魚に例えるのはとても不遜な話であるが、どうかお付き合いいただきたい。

 魚の種類や育て方を分からずに、生け簀を作る漁師はいない。このことは直感的にご理解いただけると思う。顧客と企業の関係性も同じだ。会社や商材が違えば、顧客との関係性は変わる。競合他社が多い業界であれば尚のこと、相対する顧客の見極め方や顧客とのつながり方に、他社との差別化要素がなくてはならない。もしもあなたが「同じような商材を扱っているから」という理由で同業他社のやり方や仕組みを真似ているだけに留まっているとすれば、他社と差別化できるのは価格だけになってしまうし、それはやがて頭打ちになるだろう。

 顧客との関係性に差別化を打ち出すためのコアになるのが「顧客が購買するまでのプロセスの王道」である。王道を通る顧客をイメージしながら、どのように顧客とのつながりを強めていくか、を考えることで、その企業独自の「生け簀」を仕立てていくことができる。「つながりを強める」を具体的な活動レベルに分解すると、以下のようになるだろう。

  • 我々がつながりたい顧客を特定する
  • その顧客にどうアクションすべきか、誰が責任を持ってその顧客と相対するか、を判断し、実行する
  • その顧客とどれくらいつながりを強められたか、を客観的にウォッチする
  • つながりの強度がある程度高まった顧客を特定し、次のステージへ移す
  • 上記を繰り返す

 かってマーケティングも営業もアナログだったころは、こうした活動を人間だけで続けていくことはとても難しかった。しかし今や、デジタルマーケティングやCRMのツールが、こうした活動を見える化、成果を定量化してくれる。顧客をデジタルに「生け簀」管理することは十分可能だ(重ねて不遜な比喩をお許しいただきたい)。

 前回連載の冒頭に記載した「マーケティング組織のヤバい度チェック」で「9.世の中のトレンドを押さえている」の対象にあえてITを入れたのには、こうした事情がある。顧客の行動がデジタル化待ったなしの状況で、マーケティングや営業に活用できるツールも日々進化している。ITのトレンドを押さえているかどうかで「生け簀」の仕組みのディテールがずいぶん変わってくる。
 
 「生け簀」は「顧客が購買するまでのプロセス(企業によっては購買後の行動も含む)」に沿って作られるものだ。いったん、既存の組織の建付けや業務プロセスを脇に置いて、あくまで顧客の状態にフォーカスした生け簀を作ってほしい。そうして出来上がった生け簀の一つ一つに対して、以下を粗く決めていく。

  • 生け簀の中の顧客の定義
  • 次の生け簀への遷移条件
  • 責任を負うべき部門とその役割

 この段階では「大きな絵」があればよい。この「大きな絵」を関係者全員が理解し納得してからでないと、業務やITの個別具体的な将来像は描けない。

弊社のマーケティング・営業改革の核となった「生け簀の絵」(2018年4月)。当時のデジタルマーケティングツールのトレンドをインプットに、IT化すべき部分を赤字で記した。[クリックして拡大]

 繰り返しになるが、顧客起点で生け簀を仕立ていく際には、現状の物理的な制約を取り払おう。物理的な制約とは、既存部門の間にある壁、「今こうなっているから」といったしがらみ、担当者のアサインの可否などだ。まずは「顧客ありき」で論理的に「あるべき姿」を定義することを心がけてほしい。そうすれば、自然と、各部門が協働しながら同じ顧客と向き合い、かつ、責任の所在が明らかな仕組みが出来上がるはずだ。他社事例や流行りの書籍を鵜呑みにして「インサイドセールス部門を作ってみた」「トレンドになってるツールを入れてみた」だけでは、既存部門の壁もしがらみも超えられない。「ひとつの大きな組織」を作るには、とことん顧客と向き合うしかない。
 
 前回、今回と、かなり抽象的な話になってしまった。しかし、コンセプトと施策をうまく言語化して関係者で合意しないと、この先「あるべき業務」に落とし込んだり、自分たちに最適なITを選んだりできない。ここを軽く済ませて業務やITの話に進んでも、結局は「なぜこれをやってるんだっけ?」「これを選んで何をしたいんだっけ?」と振り出しに戻ってしまう。ぜひ腰を据えてコンセプト作り、施策作りに取り組んでほしい。次回は、いよいよ業務とITの将来像の策定に入っていく。

以上



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著者プロフィール

  • 谷風 公一(ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ)(タニカゼコウイチ)

    ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 アソシエイト ディレクター。「プロジェクトを成功させるのが得意」なコンサルティングファームで、コンサルタント/ファシリテーターとして、数々の企業変革、DX推進のプロジェクトに参画。2019年、社内でマーケティング部門にスイッチ。自社のマーケ・営業組織を改革、デジタルマーケティングを推進。現在はマーケティング部門の責任者。2019年Marketo Champion、2020年Marketo Masterを受賞。

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連載:スーパープレイヤーに頼らない DX時代の強い組織の作り方、動かし方
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