電子インボイスの先にある“DtoDの世界”
2023年10月1日より導入される「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」にあわせて、注目を集めている「電子インボイス」。前回は、電子インボイスの概要や目的などを電子インボイス推進協議会(EIPA)や各団体の動向とあわせて紹介した。後編となる今回は、電子インボイスへの具体的な対応策に加えて、電子インボイスとあわせて普及を目指している「DtoD(Data to Data)」という考え方にフォーカスを当てていく。
これまで請求書や発注書のやり取りは、紙をベースとして行われてきた。紙の請求者などを郵送し、届いたものをシステムへ入力するということを多くの企業は長年にわたり行ってきたはずだ。また最近では、コロナ禍を背景に急速にペーパーレスの動きも進んでおり、メールでPDFの請求書などをやり取りしたり、自治体でもAI-OCRなどが導入されたりする事例も多数報告されている。
とはいえ、これでも一部をデジタル化したに過ぎない。EIPAの発起人でもあるインフォマートにおいて、プロダクト統括部の部長を務める関塚陽平氏は、「DtoDはこれよりも一歩先の世界で、最初からすべてデータでやり取りを行うというものです。請求書のやり取りでは、構造化された請求データを送り、それをそのまま処理することができる。このDtoDが実現できれば、業務効率を飛躍的に向上させることができることもあり、EIPAでもDtoDをベースにした標準仕様を検討しています」と説明する。
このような構想自体は昔からあり、ようやくテクノロジーの進展とともに本格的な検討を進める段階に移っているという。そして、今回のインボイス制度導入は、EIPA発足にともない多くの企業や団体が参加するなど、DtoDを現実のものとして進展させる大きなチャンスだとしている。
一方で、DtoDを実現したいという企業だけがシステムを実装すれば実現できるという話ではないため、全体として足並みを揃えながらコスト面や実現方法について検討していかなければならない。一見すると夢物語のように聞こえるかもしれないが、技術的な検証とコスト面の課題さえクリアすれば、DtoDの世界が実現するのも決して遠い将来の話ではないという。
インフォマート 事業推進・戦略営業 執行役員を務める木村慎氏も、「今は、多くの企業がAI-OCRといった製品の提供をはじめるなど、しばらくは紙が残るという見方が一般的だと思います。とはいえ、コロナ禍の影響やインボイス制度の導入など予測できない外部要因によって進展していることもあり、想像よりも早くDtoDの世界が到来するかもしれません」と期待を膨らませる。
もちろん、同社としても紙がしばらくの間残り続けると予想しており、デジタルとアナログ両方の手法を組み合わせた「BtoBプラットフォーム 請求書」などの製品を展開することで電子化やペーパーレスを促進しているという。まずは、紙を無くしていくことを目標にデータでの保管を推し進めることで、完全なデジタル化を目指すとしている。
このようにDtoDの実現を目指してデジタル化が進んでいくと、セキュリティ課題も増えてくる。たとえば請求書のやり取りにおいては、改ざんの恐れや身元を偽ったものなどが送られてくる可能性が挙げられる。現段階では具体的な対策を定めている最中であるとし、EUのeIDAS規則で規定されている「eシール(Electronic seal)」(PDF)などについて総務省で検討が進められていると関塚氏は説明する。