営業×テクノロジーを実現するスピードが企業の将来を左右する
宮田華江SalesZine編集長(以下、宮田) コロナ禍でオンライン商談やテレワークが浸透し、営業における取り組みにも大きく変化が起きています。一方で、営業×テクノロジー事例の多くはベンチャー企業や中小企業が中心で、大手企業の事例はまだ多くないように思えます。
今回は、NTTコミュニケーションズの徳田氏と、ジャパン・クラウド・コンサルティング福田氏との対談を通して、大手企業の「セールスDX」を営業×IT部門、ひいては組織横断で行っていくために必要な視点や考え方を探っていきたいと思います。ITリーダー向けのメディアEnterpriseZine編集長の押久保剛も交えての座談会とし、SalesZine、EnterprizeZineへの両方に掲載します。徳田さん、福田さん、まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。
NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 Data.Camp, General Manager 徳田泰幸氏(以下、徳田氏) よろしくお願いいたします。私は2001年に弊社に入社して、その後営業に配属され、大手担当の法人営業を15年間経験しました。今は、営業の事業戦略と人事戦略の担当をしています。2019年5月には「Data.Camp」という新組織を立ち上げ、大手法人向け営業全体のイネーブルメントやマーケティングを任されています。
ジャパン・クラウド・コンピューティング/ジャパン・クラウド・コンサルティング 代表取締役社長 福田康隆氏(以下、福田氏) よろしくお願いいたします。私は1996年に日本オラクルに新卒で入社し、2014年にマルケトの日本法人 代表取締役社長を経て、現在は外資系SaaSベンダーの日本進出を支援するジャパンクラウドの代表を務めています。
押久保剛統括編集長 兼 EnterpriseZine編集長(以下、押久保) よろしくお願いします。さっそくですが、宮田が話したように営業職にも大きな変化が起きているかと思います。現状について、おふたりのお考えをまずはお聞かせください。
徳田氏 日本の商慣習と言うのでしょうか、これまでの「感覚的」で「属人的」な営業手法による成功体験が多いことで、次の時代へ移行しづらいと感じています。打破するために、弊社ではAIを活用した営業アドバイザー機能を推進しています。これについては後ほど少し事例を話せたらと思っています。
福田氏 私が日本オラクルに入社した90年代ごろ、日本にERPは「合わない」「向かない」と言われ続けていましたが、現在、日本の大手企業のほとんどがSAPをはじめとするERPを導入しています。同じように宮田さんのお話しされた「営業×テクノロジー」が日本の大手企業に浸透するのも時間の問題かと思いますが、その導入までの時間の長さ、短さでその企業の将来が大きく変わるのではないかと考えています。
「DX」を単なるバズワードと捉えてはいけない
宮田 大手IT企業にいる徳田さんが、次の時代へ移行しづらいと感じていらっしゃる。まさに、日本の大手企業で同じような課題を感じている方も多いかと思います。日本の大手企業のDXを阻むもの、それは何なのでしょうか?
徳田氏 ICTやIoT、クラウド、DXなどキーワードはよく使われますが、実態が伴っていない印象があります。バズワード的とでも言うのでしょうか。「ツールを入れて、ちょっと使いやすくなったね」というのは別にDXではないでしょう。営業組織であれば「SFAを入れたからDX」というわけではありません。ビジネスをどう成長させていくのか? その視点が抜けている気がします。
福田氏 徳田さんのおっしゃるとおりですね。ただ、ツールを入れることで気づきがあったり、やってみようというポジティブに動く力が生まれたりする、ということもあるかと思います。ツール利用が経験になり、これまでとは違う視野を持つきっかけになるかもしれない。これは何もDXに限ったことではないですよね。ビジネスとは、新しいことにチャレンジし、成功と失敗を繰り返して成長していくものですから。最初は実態が伴っていなかったとしても「DX」というキーワードをフックにチャレンジがスタートすること自体を、私はポジティブに捉えています。
徳田氏 経験を通じて、自分ゴトにつながるのは確かに大切ですね。やはり、我々のようなIT企業には、お客さまから「DXをやりたいんだけど」と言葉だけが先行したご要望が寄せられてしまうことも事実です。本来のDXはビジネスを変えていく手段であって、目的ではない、ということをきちんとお伝えしつつも、ツール利用を通してまず経験をしてもらうことが重要であるという考え方は私も同意です。
セールスDXの成長段階、日本はまだ第0階層から第一階層止まり
押久保 キーワードに踊らされてしまう部分もあれば、キーワードがチャレンジのきっかけにもなりうるというのは面白いですね。もう少し日本企業特有の課題、という点について深掘りしたいと思います。徳田さん自身も、まさに日本の大手企業の中にいらっしゃるわけですが、いかがでしょうか。
徳田氏 言葉としてのDXは、戦略的な使い分けがあると思います。中期計画を立てていく中で、既存リソースに対して方向性の示唆、原動力となりえるのではないでしょうか。ただ一方で、戦術に落としたときに目的と世界観を狭めてしまうケースも多いように思います。このツールを入れたらプロセスが圧縮される、このダッシュボードを入れるとデータが見えやすくなる、などですね。新しいツールの導入に満足してしまうこのような事例は、私たちでも陥りがちな部分なので、自戒も込めて話しています。
福田氏 戦略に沿って優れた戦術が生み出せれば良いのですが、大手企業ともなると人も組織も多く、戦略伝達のフローがスムーズにいかないケースはありますね。中小企業だと優秀な社長が、直接現場に指示を出して一気に変わることは多々ありますが。
押久保 真ん中がボトルネックだと(笑)。
徳田氏 トップは会社の中長期を見ていて、現場は日々の業務に追われている。ツールにしても、ダッシュボードにしてもトップ層が導入したがるものは、現場から見ると面倒なものに見えてしまいがちです。ここのマインドを切り替えるためにも、ミドルクラスも含めて、トップから現場まで導入することが、自分たちにとって成功や幸福につながると思ってもらわないと本質的な導入とは言えない。私がつくったこのスライドでいうと、ほとんどの企業はまだ第0階層から第一階層の印象です。
宮田 営業の現場からしてみると、確かに当初は「面倒だ」という声が多くなりそうですね(第0階層)。そこから成功体験が出てきて喜びが増えるものの(第一階層)、第二階層には経営者側と現場側の考えの乖離が再び生まれる。
徳田氏 そうなんですよ。この繰り返しをしていては組織としてもよろしくない。だからこそ、第三階層のステージにあるように、経営側と現場側の双方が幸せになれる仕組みづくりを行うことが重要になってきます。