ツールを「なんか魅力的」で選ばないための7つの物差し
今回は「ツールの『正しい』選び方」がメインテーマである。マーケティング領域で使用するツール群は、そのほとんどがサブスクリプション型のWebアプリケーションである。ユーザーの使い方にジャストフィットした追加開発を施すことは難しいが、様々なユースケースを想定して幅広な機能群を搭載している。どのツールを選んでもそれなりに使えそうだし、実際、必要最小限の設定を施せば目の前の業務で使い始めることもできるだろう。しかし、だからこそ「正しく」選ばなければ、冒頭のエピソードのように、使わない機能満載のツールに高額な月額料金を払い続けることにもなりかねない。スーパープレイヤーなら、どんなツールであってもそのポテンシャルをグイグイと引き出して、さらに業務そのものもアップデートしてくれそうだが、スーパープレイヤーがいないなら、やはり「正しく」選ぶしかない。
ツール選定の「正しさ」とは何だろうか。それは、選定候補のツールをまな板の上に並べ、同じ物差しできっちり測り、その結果を、ツールを使うマーケ部門が主体となり、全員で横並びで見比べ「これにしよう」と合意することである。そして、経営者や選定に関わらない第三者が「なるほど、だからそのツールを選んだのか」と納得する根拠を表明できることでもある。「みんな使ってるし、なんかよさげ」とフィーリングで決めてもいけないし、中身を吟味しないまま価格で決めてもいけない。
ツールを正しく選ぶための物差し、つまりツールの評価項目は、以下の7つが妥当である。
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機能の実現性:これまでの連載で作り上げた機能要求(FM)に対し、ツールの持つ機能がどの程度フィットしているか。いくら機能リッチなツールであっても、優先順位の高い機能要求に対するフィット率が低ければ、選ぶべきではない。
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非機能要求への適合性:情報セキュリティリスクに対するツールベンダーの対応状況や、システム稼働率(どの程度までシステム停止が許容されるか)などから、総合的に判断する。この項目については、情報システム部門に知見を仰ぐか、情報処理推進機構(IPA)が提供する非機能要求グレードを参考にするとよいだろう。
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導入アプローチ:ツール導入プロセスをスムーズに乗り切れそうか。ベンダーの導入担当SEが張り付くケースもあれば、ユーザー自身が導入するケースもある。いずれにしても、すぐに導入したい機能要求が決まっていれば、それをベースに、ベンダーから提案された導入アプローチの良し悪しを判断できる。
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導入コスト:導入アプローチに付随して決まるコスト。担当SEがサポートする場合は、その稼働コストが主な内訳となるだろう。既存システムとの連携やデータ移行など、追加で作業が必要な場合は別途見積を依頼するケースもある。「総額いくら」ではなく、各社の見積をApple to Appleで比較できるよう、内訳をきちんと揃えてもらうことが重要である。
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運用コスト:主に月額利用料を指す。これも、各ツールの機能フィット率が事前にわかっていなければ、値段の良し悪しを判断できない。安いからと飛びついても、フィット率が低ければ使い物にならない。
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企業や製品の信頼度:国内の導入実績や、これまでのサーバトラブル頻度などから総合的に判断する。
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デモプレゼン:将来業務の一部をピックアップし、そこでのツールの使い方を画面付きでデモしてもらい、業務で使えそうか、を確認する。プレゼンターは、実際に導入を担当するSEや、運用をサポートしてくれるメンバーであることが望ましい。ツールの導入を成功させ、バリバリと使い倒す上で、彼らがパートナーとして頼りがいがあるか、を見極める。
いくつかの評価項目に「機能の実現性」が影響していることからも、FMを作り優先順位付けをすることの重要性をお分かりいただけるだろう。「欲しい機能」を定義しないままツール選定に入ってしまうと、セールストークに長けたベンダーの営業担当者から、そのツールの強みだけがギッシリ詰まった「キラキラなデモ」を見せられて「なんか魅力的」になってしまうこともある。これでは正しい選び方にならないし、第三者に納得感のある根拠を示すことはできない。ツールの選定は、まずもって「欲しいものをどれだけ実現できるか」から始めることが極めて重要である。キラキラデモを見ても「その機能は優先度低ですね。うちでは使いません」と冷静に判断できるかどうかがポイントになる。