業務改革は“共創”の風土を根付かせるところから始まる
クラウドの導入をともなう業務改革を成功させるためには、現場や経営陣からの協力が欠かせない。とはいえ、社内でヒアリングを行っても具体的な要望までは聞き出せないこともあるだろう。また、せっかくの挑戦が部分最適化のみで終わってしまうなどの問題が生じる可能性もある。PoCで価値を実感してもらうことは有効な手段であるが、その場合も他部門からの協力を得て進めることが、より良い結果につながるはずだ。その代表例がテレワーク導入である。これからやろうとしていることが労働法に準拠しているか、人事とともに検証を行わなければならないからだ。
「ポイントは、導入の主目的を明確にすること」と岩本氏は話す。それは、システムや施策によって、対象範囲や留意事項が変わってくるためである。たとえば、テレワークであれば「いつでもどこでも多様な働き方ができること」を主目的に据える。すると、実現にともなうリスクや課題として、「事実上のサービス残業の要請になる」「コミュニケーションの行き違いが生じる」「いつでもどこでもが逆にストレスになる」などが浮かび上がってくる。そこで導入と同時に、人事とともに労働法に準拠した就業規則を変えることにも取り組んだ。
さらに、本来の主目的とは別にトライアルプロジェクトを実施する際は、課題とリスクの洗い出しも意識することが望ましい。実際、PayPay銀行では数回のトライアルを実施するにあたり、トライアル中は「時間外労働の禁止」「回数の上限設定」「申請は紙ベース」であったものを、本運用では「会社の承認の下、時間外労働も可能」「回数の上限なし」「電子申請」と改めている。
IT部門が武器のみを提供しても、使いやすいルールでなければ定着しない。PayPay銀行では、コロナ後の働き方を見据えて、テレワークと並行してフレックス制度を導入し、使い勝手を向上する判断を下した。これは「この働き方が今後の標準になる」という経営判断があってこそ為せる施策である。現場の空気をエスカレーションして、「あったらうれしい」を実現する。現場と経営が一緒に考える「共創」を組織の風土に根付かせることが、業務改革の最大の成功要因になるということだ。