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「DX出遅れ」巻き返すために、日本企業が取り組むべきこと 『DXの思考法』西山圭太氏インタビュー

 新型コロナウイルス感染症によって、デジタル化の波は世界中で加速しました。同時に、行政をはじめとする日本のデジタル化がいかに遅れているかが露呈されることになったのは多くの人が知るところでしょう。米中の覇権争いの中心もデジタル化に関する技術と産業が中心であり、この遅れは産業界にとって将来致命的な結果につながりかねません。ビジネスの現場やメディアでDX(デジタル・トランスフォーメーション)が語られていますが、「トランスフォーメーション」という英語は「決定的な変化を起こす」ことを意味します。日本企業は決定的な変化を起こせるのか? 『DXの思考法』の著者でもあり、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授などを務める西山圭太氏と、小社の押久保剛統括編集長 兼 Enterprise Zine編集長の対談を通じて考えます。

「個人」としての遅れはないが「産業」としては遅れている現実

押久保剛(以下、押久保):今回の対談、私が『DXの思考法』を拝読し、お声をかけさせていただいたことが発端です。非常に読み応えのある内容でした。さっそくですが西山さんにお伺いします。日本のDXの現在をどのように捉えているのか教えてください。西山さんから見て、各国と比べて日本のDXの状況をどう捉えていらっしゃいますか。

西山圭太氏(以下、西山氏):なぜ今私がDXについて語るのか。そこから話をしたほうがいいでしょう。私は1985年に通商産業省(現在の経済産業省)に入省しました。そこから、産業革新機構の執行役員や経済産業省商務情報政策局長などの役職を拝命してきており、一貫して日本の経済・産業システムについて携わってきました。

西山 圭太東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授日本ディープラーニング協会 特別顧問東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。産業革新機構専務執行役員、経済産業省大臣官房審議官、東京電力ホールディングス取締役、経済産業省商務情報政策局長などを歴任したのち、2020年夏に退官。著書に「DXの思考法」(文藝春秋)。
西山 圭太氏
東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授
日本ディープラーニング協会特別顧問
東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。産業革新機構専務執行役員、
経済産業省大臣官房審議官、東京電力ホールディングス取締役、
経済産業省商務情報政策局長などを歴任したのち、2020年夏に退官。
著書に『DXの思考法』(西山圭太[著]解説・冨山和彦、文藝春秋、2021年4月)。

 その私が、この20〜30年間で感じるのは「日本の産業からダイナミズムが失われてきた」ということです。私が若いころ、日本は世界でJapan as Number One とまで言われ(社会学者エズラ・ヴォーゲルの1979年の著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(原題:Japan as Number One: Lessons for America)から日本でも流行語となった)、産業が非常に強かった。それが今、出遅れている。落ち込んでしまっている。

押久保:私は世代的に西山さんよりも若輩で、日本の強さを実感できる時代ではありませんでしたが、インターネットなど以前にはなかった利便性は手に入れていたように思います。

西山氏:押久保さんも感じられる通り「個人」として「遅れている」感じはないでしょう。皆さん、他の先進国同様にスマートフォンを使い、友達や仲間と情報や思いを共有し、仕事や勉強にPCを使う。インターネットは比較的手軽に接続できるでしょうし、発展途上国などと比べれば進んでいるとも言えます。個人としては問題ないのです。問題は産業です。産業は一人では担えない。そこには法人などの組織があり、取引が発生し、自国、諸外国による行政との絡みや社会の仕組みなどが存在します。この産業の構造が、日本は世界の他と比べて出遅れているのです。

押久保:それはどういうことで、なぜなのでしょうか?

日本の出遅れの原因は、「具体」の力が強いことにある

西山氏:私はよく「具体と抽象」と話すのですが、日本人はとにかく「具体」の力が強い傾向にあります。「今あるもの」を細かくしたり、足したりして新たな価値を生み出すのが得意とよく言われてきました。

 これは組織にもいえます。「縦割り」とよく表現される日本の組織構造は、一つひとつの部分をより良くしていく上では効果が出やすい。一つの部門で一つのことに追求するので、改善面などで職人的な成果を出せます。しかし、それでは他の部門のことが頭に浮かばない。

 さらにいうと、会社全体や社会全体について考える習慣を捨ててしまうことになる。どのように自分だけでなく、組織として業務を効率化させて、生産性を向上させるのか。そしてその中でどのようなイノベーションを起こしていくのか。このような考え方をするためには、「抽象」の考え方——つまり、今までの情報の中で共通パターンを抜き出して、自分の属する組織を超えて標準化をしていくような考え方が、一人ひとりに求められるのです。

押久保:日本はよく「おもてなし」として、一人ひとりに対する満足度を高めようとします。

西山氏:それはもちろん悪いことではありませんが、たとえば1万人のユーザーのうち、一人の満足度を高める改善が、9,999人に不満を感じさせることもあるかもしれません。「具体」の考え方で突き詰めると、近視眼的になり、こうした本質的な課題に気づけないこともある。防ぐためには「抽象」の考え方でもって標準化していくことです。

押久保:今はAPIエコノミーとも言われ、標準化の仕組みの中でどのように自分たちが使いこなし、使いこなされるか考える必要もあります。

西山氏:しかし、その標準化モデルを作るのが、日本の組織構造的に難しい。縦割りで、それぞれがそれぞれの成果指標で動くケースも多いですからね。ITとビジネスが密接につながり、もはや一体化したともいえる現在、企業活動の中で部署間を超えた共通パターンを見いだし、それを標準化し、ビジネスをどう変えるのかを考える。これが主流なのに、日本企業はできていない。「出遅れている」と話す、理由の一つがそれです。

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世界が大きく変わることに気づけない日本企業

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長1978年生まれ。立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

中村 祐介(ナカムラ ユウスケ)

株式会社エヌプラス代表取締役デジタル領域のビジネス開発とコミュニケーションプランニング、コンサルテーション、メディア開発が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・実施...

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