統合・分散の新陳代謝でITの産業は伸長してきた
IT業界にはメインフレームからクライアント/サーバーのように、統合と分散が繰り返されてきた歴史がある。統合と分散には技術アーキテクチャ的な側面もあれば、企業の動きの中でもそれらが見受けられる。
「たとえばビジネスアプリケーションでは、2000年以前はメインフレームを中心にIBMというプレーヤーがいました。その後、クライアント/サーバーが出てきて、データベースやERPが注目されOracleやSAPというプレーヤーが登場します。2000年を越えたくらいからそれらの会社が大きくなり、一気に買収を進めます。
結果的に統合化が進み3、4社が市場を独占します。しかしそれらと並行して、ドットコム・バブルのようなことも起こります。ビッグプレーヤーから人材が出て、新たに起業する人が増えるのです。技術的にもインターネットを前提に、1からアプリケーションを作り替えるものが生まれ、2000年代中盤くらいからはSaaS企業が一気に増えました」(福田氏)
インターネットが登場した当初の1990年代後半は、既存のクライアント/サーバー技術の上に無理矢理インターネット技術をかぶせたようなサービスが多かった。それらは過去を捨てきれず中途半端で、大きく発展するものは少なかった。それが2000年代になり、インターネット技術ありきでまったく新しいサービスが生まれた。マルチテナントなどの新しい概念も登場し、群雄割拠のクラウドの時代に突入する。
結果として、たとえばマーケティング領域で多くのプレーヤーが出現し、マーケティング・オートメーションツールのカオスマップができた。最近ならセールステックやDevOpsの領域で、同様なカオスマップが描ける。カオス状態がしばらく続くと、ビッグプレーヤーがカオスの中から有望なプレーヤーを買収する統合化が始まる。起業からカオス状態、そして買収というように、IT企業の動向としても統合と分散は繰り返される。
以前であれば、ビジネスアプリケーションというように統合、分散のシナリオはIT業界全体で1本くらいしか走らなかった。それがクラウドの時代には複雑化し、複数カテゴリーで統合、分散シナリオが並行して走る。マーケティング・オートメーションツールの次にセールステックの統合、分散が順にやって来るわけではない。
複数のカテゴリーで統合と分散のシナリオが並行して走るのは、世の中でITに求められることが多様化したからだろう。ニッチな領域の要求にも、ITが柔軟に応えられるようになった。結果、ニッチな狭い世界でもビジネスが成り立つようになった。会社の統合、分散とITアーキテクチャの統合、分散が絡み合いながら、ITの世界は常に変化し動いているのだ。