「IT大手のリストラは、新陳代謝の始まり。生成AIにも期待」福田康隆氏にIT業界の今後を訊く
【インタビュー後編】統合と分散で伸長するIT業界、出遅れる日本の課題も浮き彫りに

前回は、ジャパン・クラウド・コンサルティング 代表の福田康隆氏に、現状のビッグテックの不振やSaaSビジネスの動向について話を訊いた。今回はそれらの動向を踏まえ、今後のIT業界について占ってもらった。
統合・分散の新陳代謝でITの産業は伸長してきた

IT業界にはメインフレームからクライアント/サーバーのように、統合と分散が繰り返されてきた歴史がある。統合と分散には技術アーキテクチャ的な側面もあれば、企業の動きの中でもそれらが見受けられる。
「たとえばビジネスアプリケーションでは、2000年以前はメインフレームを中心にIBMというプレーヤーがいました。その後、クライアント/サーバーが出てきて、データベースやERPが注目されOracleやSAPというプレーヤーが登場します。2000年を越えたくらいからそれらの会社が大きくなり、一気に買収を進めます。
結果的に統合化が進み3、4社が市場を独占します。しかしそれらと並行して、ドットコム・バブルのようなことも起こります。ビッグプレーヤーから人材が出て、新たに起業する人が増えるのです。技術的にもインターネットを前提に、1からアプリケーションを作り替えるものが生まれ、2000年代中盤くらいからはSaaS企業が一気に増えました」(福田氏)
インターネットが登場した当初の1990年代後半は、既存のクライアント/サーバー技術の上に無理矢理インターネット技術をかぶせたようなサービスが多かった。それらは過去を捨てきれず中途半端で、大きく発展するものは少なかった。それが2000年代になり、インターネット技術ありきでまったく新しいサービスが生まれた。マルチテナントなどの新しい概念も登場し、群雄割拠のクラウドの時代に突入する。
結果として、たとえばマーケティング領域で多くのプレーヤーが出現し、マーケティング・オートメーションツールのカオスマップができた。最近ならセールステックやDevOpsの領域で、同様なカオスマップが描ける。カオス状態がしばらく続くと、ビッグプレーヤーがカオスの中から有望なプレーヤーを買収する統合化が始まる。起業からカオス状態、そして買収というように、IT企業の動向としても統合と分散は繰り返される。
以前であれば、ビジネスアプリケーションというように統合、分散のシナリオはIT業界全体で1本くらいしか走らなかった。それがクラウドの時代には複雑化し、複数カテゴリーで統合、分散シナリオが並行して走る。マーケティング・オートメーションツールの次にセールステックの統合、分散が順にやって来るわけではない。
複数のカテゴリーで統合と分散のシナリオが並行して走るのは、世の中でITに求められることが多様化したからだろう。ニッチな領域の要求にも、ITが柔軟に応えられるようになった。結果、ニッチな狭い世界でもビジネスが成り立つようになった。会社の統合、分散とITアーキテクチャの統合、分散が絡み合いながら、ITの世界は常に変化し動いているのだ。
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押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)
メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長1978年生まれ。立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア...
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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