「問いかければAIが使える時代の始まり」AI専門家 野口竜司氏にChatGPT登場後の新世界を訊く
GPT-4発表で進化加速、働くAIとの共存のカギは日常的な「アンラーン」

米OpenAIが2022年11月に公開したチャットボット「ChatGPT」が大きな話題を呼んでいる。質問に対して的確な回答を返す精度に驚いた方も多いのではないだろうか。公開から2ヵ月でユーザー数が一億人に到達したことからも、反響の大きさがうかがえる中、米OpenAIは3月14日(米国時間)に最新版の技術基盤「GPT-4」を発表。さらに注目度が高まった。一方でAI分野にスポットがあたって久しいが、歴史を振り返るとIT業界では数年ごとにバズワードが登場しては消えを繰り返している印象だ。今回の現象を「AIが当たり前の世界の始まり」と語るのは、AIの専門家である野口竜司氏。ChatGPTを実現したAI技術である大規模言語モデルの最前線を知る同氏に、現状と今後について訊いた。
予想を超えるレベルで登場、ChatGPTの衝撃
──ChatGPTが大きな話題を呼んでいます。実際に自分で使っても衝撃を受けましたが、その時に思い出したのが、一年半前に野口さんに取材した際に「今、会話系AIが盛り上がっている。ビッグウェーブが来るかも」とおっしゃっていたことでした[1]。本当にビッグウェーブが来ましたが、現状をどう見てますか。

まさに、私がELYZA(イライザ)に入社した理由が、ChatGPTのような対話型AIを実現するAI技術である大規模言語モデル(Large Language Models)[2]の最前線を走っている環境に飛び込みたいと思ったからです。ELYZAは、東京大学・松尾研究室発の自然言語処理を軸としたAIプロフェッショナル集団で、大規模言語モデル研究と社会実装において国内トップクラスの企業。最前線を知る私たちから見ても、今回のChatGPTのレベルは想像を超えたと話をしていました。
──その理由はどこにあるとお考えですか。
少し専門的な話になりますが、ChatGPTは米Open AIが2020年にリリースした大規模言語モデルであるGPT-3[3]と、その後継にあたるGPT-3.5をベースとしたチャットボットです。

GPT-3.5に対して、教師あり学習と報酬モデルの学習を行い、その上で強化学習を行うというステップでChatGPTの学習は構成されているため、これまでに比べて一段レベルの高い結果を返すことが可能となっています。さらに、直感的にわかりやすいインターフェイスが大きな話題になった要因ではないでしょうか。

もう一つポイントを挙げるなら、スケール則(scaling law)と呼ばれる法則です。極めて重要な法則なのですが、端的に言えば「データを増やし、計算能力を増やし、パラメータの数(モデルの容量)を増やせば、精度がどんどん上がる」という法則で、データ量と演算量が巨大だった結果、今回のようなブレークスルーにつながったのではと思います。
パラダイムシフトの瞬間であり、AIブームではない
──これまで、AI分野では何度かブームが起こっていると思います。ChatGPTに関して、私たちのような専門メディアだけでなく、大手マスメディアでも報道が相次ぎ注目度の大きさを感じたのですが、野口さんは今回の現象をどう捉えていますか。
今回の現象はブームではなく、パラダイムシフトの瞬間と捉えてよいと思います。AIの歴史を紐解くと、1960年代に第1次AIブームが起こったとされていて、現在は技術的進歩、マシンパワーの向上、データ量増大を要因とする第3次AIブームにあたるとされています。

その中でAIの技術要素の一つであるディープラーニングが発達し、画像認識の分野等でブレークスルーを起こしました。しかし、一般的には裏方的存在というか今回のように直感的に社会のあり方や仕事が変わるようなイメージを、多くの人がもつまでには至りませんでした。
一方ChatGPTであれば、プログラミングはもちろんローコードツールやノーコードツールもいりません。ただ話しかければ結果が返ってくるわけですから。「AI活用」という小難しそうなことが、グッと身近になった瞬間ですよね。
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押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)
メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長1978年生まれ。立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア...
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