SDGsにとってITは不可欠な条件
企業経営においてもSDGsは、もはや避けて通れない。「SDGs経営」という言葉も生まれ、2019年5月には経済産業省が「SDGs経営ガイド」をまとめ、公開している。このガイドラインには「今や世界中の企業がSDGsを経営の中に取り込もうと力を注いでおり、日本においても、SDGsを経営に組み込むべく様々な取組みが進められている」との記述があり、さらに「世界全体がSDGsの達成を目指す中、これを無視して事業活動を行うことは、企業の持続可能性を揺るがす『リスク』をもたらす。一方、企業がビジネスを通じてSDGsに取り組むことは、企業の存続基盤を強固なものにするとともに、いまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな『機会』となり得る」との指摘もある。
市場では、従来の財務情報だけでなく環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮したESG投資が拡大している。SDGs経営を進めることは、ESG投資を呼び込むことにも繫がる。実際、欧州の機関投資家はESGに対する意識が高く、欧米での決算発表の場では真っ先にESGやSDGsについて質問されることも増えていると聞く。多くの欧米企業は中期、長期の経営計画にSDGsへの対応を盛り込むのが当たり前になっている。
今後企業がSDGs経営を実現していく際に、大いに活用するのがITだ。たとえば目標の7番目の「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」、13番目の「気候変動に具体的な対策を」に対応するには、クラウドなどを積極的に活用しエネルギー消費を効率化して、CO2排出量を減らす必要がある。CO2排出量を減らすには、そもそも自社がどれくらいのエネルギーを利用しているかを正確にモニタリングする必要がある。これにも当然、ITの仕組みは欠かせない。
9番目の目標である「産業と技術革新の基盤を作ろう」にもITは不可欠だ。また10番目の「人や国の不平等をなくそう」や12番目の「つくる責任、つかう責任」への対応でも、製品やサービスを構成するのに使われるさまざまなリソースを正確に追いかけ、利用状況のリアルタイムなモニタリングができなければならない。これらもITの力無しには実現できない。
SAPやAWSがSDGs実現支援のソリューションを提供する理由
企業が重視する姿勢が明らかなため、ITベンダーからはSDGsの実現を支援するさまざまなソリューションが登場している。この領域に力を入れている企業の1つがSAPだ。2020年、新たにクリスチャン・クライン氏が若きCEO(当時39歳)としてSAPの経営をリードすることとなった際、将来を担う子どもたちのために地球環境を守るとのメッセージを強く発信したことは、極めて印象的だった。クライン氏は、SAPのソリューションを使い地球規模の気候変動の問題解決に貢献することも表明している。
SAPでは自社でSDGs経営に取り組むのはもちろん、顧客企業がSDGs経営を進めるためのソリューションを展開している。それが実務部門における非財務情報の見える化をサポートする「SAP Product Footprint Management」や「SAP Responsible Design and Production」だ。さらに経営層にサステナビリティ経営関連指標を提示する「SAP Sustainability Control Tower」もある。
SAP Product Footprint Managementを使えば、調達、購買したもののカーボンフットプリント情報を可視化できる。これにより製品なりを製造するために工場などから排出されるCO2だけでなく、製品を構成する材料などに起因するCO2排出量も把握できる。このような取り組みが可能となるのは、SAPが網羅的なビジネスアプリケーションを提供するベンダーだからだろう。従来SAPは、ビジネスを進める際のお金の流れを追いかけられるようにしてきたが、今後はそれに加えエネルギーやCO2排出量なども追いかけられるようにするわけだ。
AWSもSDGs経営を支援するソリューションを展開している。AWSの顧客企業が同社のサービスを利用する際にどれくらいのCO2を排出しているかを把握する「Customer Carbon Footprint Tool」を、2022年3月から提供している。AWSでは自社で脱炭素化に積極的に取り組んでおり、その状況を顧客と共有してきた。顧客からも同様の取り組みをしたいとの要望があり、クラウドインフラのCO2排出量を詳しく知るためのツールを、ユーザーに無償で提供することとなったのだ。